大人になるということはきっと何かを失っていて、でもそれは紛れもなくあの時の君が追いかけ続けていた大事な大事な何かで、忘れちゃいけない君だったんだよ。

あの日追いかけていた何かは、今や僕の心の中にすらいなくなっていた。
ああ、待ってよ、もうちょっとだけ。
掴みかかるとすぐに霧散してしまう何かはまたひょっこりと姿を現し、僕がもがいてる様を楽しんでいた。
追いかけては消え、消えたと思ったら現れ、鬼が変わらない鬼ごっこに辟易した僕はいつかの群青色をした冬空の下、何かに初めて背を向けた。

何かは僕を追いかけるでもなく、振り返るとただずっと視界の奥に佇んでいた。まるで僕が虚をついて鬼ごっこを再開するんじゃないかと疑っている何かは、最初のうちこそ遠く離れていたものの、日を追うにつれだんだんと近づいてきた。しかし生きることに不自由がなかった僕は二年間も何かに向き合うのを辞めた。

あの頃掴み切れなかった何かはもう目の前にいるのに、錆きってしまった僕の手はもう何も掴めなかった。
僕の手が機能しないのを見て、何かはどこか寂しそうな様子で次の日の朝には霧散していた。それは紛れもない僕が二十歳になった日だった。僕はなんだかやるせなくて、もう一度ベッドに身を預けた。外では雨が降っていて、風がガタガタと家の窓を揺らしていた。


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