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メバル(𝘚𝘦𝘣𝘢𝘴𝘵𝘦𝘴属)


2022年9月1日筆者撮影 須磨海浜水族園にて

条鰭綱スズキ目カサゴ亜目メバル科メバル属
メバル(𝘚𝘦𝘣𝘢𝘴𝘵𝘦𝘴 spp.)

日本では北海道南部から九州までの岩礁や藻場近辺に生息。
全長30cmほどになる。
食性は肉食であり、貝類、多毛類、甲殻類、小型魚類などを捕食。
卵胎生。

私はこの魚をきっかけに分類学が面白いと感じるようになった。
この魚の奇怪な分類について少しだけ語ろう。
実を言うと、厳密には「メバル」という名前の魚は存在しない。
2008年に公開された「Taxonomic review of the Sebastes pachycephalus complex(メバル複合種群の分類学的再検討)」(中坊、甲斐)という論文でそれまで「メバル(𝘚𝘦𝘣𝘢𝘴𝘵𝘦𝘴 𝘪𝘯𝘦𝘳𝘮𝘪𝘴)」とされてきた魚は「アカメバル(𝘚𝘦𝘣𝘢𝘴𝘵𝘦𝘴 𝘪𝘯𝘦𝘳𝘮𝘪𝘴)」、「シロメバル(𝘚𝘦𝘣𝘢𝘴𝘵𝘦𝘴 𝘤𝘩𝘦𝘯𝘪)」、「クロメバル(𝘚𝘦𝘣𝘢𝘴𝘵𝘦𝘴 𝘷𝘦𝘯𝘵𝘳𝘪𝘤𝘰𝘴𝘶𝘴)」の3種に細分化された。
これが曲者で見た目での判断が非常に難しいのだ。
一応形態としての違いは名前通りの色以外に胸鰭軟条数、尻鰭条数、側線有孔鱗数が挙げられる。しかしそれぞれレンジが広く決定的な判断材料としては弱く感じられる。加えて体表の色が生息地によって変化しやすいことは想像に容易いだろう。
では論文ではどのような根拠が挙げられているのだろうか。それがAFLPの解析結果、すなわちゲノム解析の結果である。
私は分子生物学を専門としないため詳細な説明が不可能だが、どうも3種では配列が異なるらしい。(←分子生物学を学ぶために理研BDRのインターンに行ったはずでは…?)
ただし広大の院生の方から聞いた話では中間的な種も存在するようであり、素人学生からすると「うーん、分ける必要あったの…?」という風にすら感じられてしまう。
人々の生活のみならず学術的にも人口に膾炙した「メバル」という名前を捨ててまで分ける必要があったのかはさらなる検討が必要だろう。

ただし分類学も転換点が訪れているのは確かだ。私は旧来的なE.マイヤーの生物学的種概念を信奉していた時期があり、生殖隔離こそが真の種分化であると考えていた。しかしながら世の研究者はいちいち交雑実験をしていられるほど暇でもないし、近年に至ってはゲノムシーケンス技術が格段に向上している。
分子生物学的な根拠を持った分類が主流になるのも当然の帰結であろう。
私も古い考えを捨てなくてはいけないし、分類屋に足を突っ込みたいのなら食わず嫌いせずに分子生物学をはじめとしたミクロ分野を学ばなくてはいけないのだろう。

余談だが私には分類以外にもこの魚に思い入れがある。
初めて自前で道具を揃えて始めた釣りがメバリングだったのだ。
今思えばタックルはエギング仕様に近かったが、なんせ小学校2年生の頃だったのでよく分かっていなかった。そのせいか、今では大抵の釣りをエギングタックルで済ませてしまっている。(侮るなかれ、45cmのバスやなんと70cmのナマズだって釣れるのだ。)

この魚に対する想いの強さはアナグマと共に髪色のモチーフの一つにするほどだ。
そう言えばまたメバルのシーズンがやってきた。竿を担いで海に行かねば──


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