"サービス"を"デザイン"する...?「サービスデザイン思考」って何?
今、新しいサービスを生み出したり、もともとあるサービスを改善していく上で、「サービスデザイン」という考え方が注目されています。サービスをデザインする思考とは、具体的にどんな考え方なのでしょうか。今回は、高崎商科大学でサービスデザイン思考を取り入れた授業を行い、デザイン・シンキングやファイナンス論について研究をしている前田拓生教授にお話を聞いてみました!
「サービスデザイン思考」はビジネスについて考える上で役立つ!
ーここ十数年で「サービスデザイン思考」は世界的に注目されているそうですが、いったいどんな考え方なのでしょうか?ー
日本ではまだまだ浸透していない言葉なので、イメージがわきづらいかもしれないね!サービスデザイン思考というのは、分かりやすく言うと「デザイナーのような考え方を基にして、ビジネスについて考える」ということなんだ。
例えば、一人のお客さんに合ったメガネを一から作るときに、デザインやフレームの形を個人に合わせて調整していくよね。お客さんの要望に沿って、何度も修正しながらプロトタイプ(試作品)を作り、デザイニング(設計)しながら商品を作っていく。これがサービスデザイン思考という考え方なんだ。
ーなるほど。つまり、個人の要望に沿ってサービスについて考えるということですか?ー
そうだね。デザイナーというとパッケージデザインをはじめ、できあがったものに対して最後にデザインを施す、というイメージがあるかもしれないけれど、そもそもデザインはモノづくりの最初の段階から必要なことなんだ。情報化社会からデジタル社会へ変化している今、よりサービスデザイン思考が求められるようになっているんだよ。
ー情報化社会からデジタル社会?それはどういうことですか?ー
例えば、情報化社会では「労働生産性を高めて、できるだけ安いものを多くの人へ提供しよう」という傾向が強かったけれど、デジタル社会では大量生産ではなく、個人のニーズが重要視されるようになってきた、といえるんだ。集団ではなく、個人がターゲットになりつつあるのがデジタル社会の特徴の一つなんだ。
ーなるほど!ー
例えば、日常で車を使いたい場合、今は車を買わなくても、車に乗りたいときだけ乗ることができるカーシェアサービスも普及しているよね。物も時間も、自分の思いのままに利用できるサービスが求められていて、そんな新しいビジネスを考えたり、今あるサービスを使いやすくしたりするときに役立つのがサービスデザイン思考なんだ。
サービスデザイン思考を取り入れるには、「練習」が大事?
ーサービスデザイン思考を用いるときは、どんな順序で考えていくのですか?ー
何かキーワードを基にして、そこからサービスの在り方を考えていく方法と、実際に見たり経験したりしたことを基にして、話し合いながらサービスに求められるものを考えていく方法があるよ。サービスを受け取るお客さんの深層心理について考えるのも一つの方法だね。
キーワードを基にしてデザイン思考を実践する方法は座学でもできるから、実際に大学の授業でも取り入れているんだ。新しいビジネスやサービスを生み出す上での課題を発見し、仮説として検証してみて、もしうまくいかない場合は対処する。この一連の流れで考えていくことが重要だね。
ー大学の授業でサービスデザイン思考を取り入れようと思ったのはなぜですか?ー
近年はお客さんが第一で、個人にマッチングするようなサービスを作ることが求められていて、今までにない考え方や思考が必要になってきているよね。生活者の多様な要望に対して、若い世代ほど柔軟に対応することができていると思うから、ビジネスを志す学生たちにもサービスデザイン思考は取り入れやすいんじゃないかと思ったんだ。
ーサービスデザイン思考を取り入れた授業の具体例について教えてください。ー
例えば、「子どものより良い遊び場」について考える授業。保護者へのアンケートデータを基にして、子どもの遊び場の在り方やサービスについて学生と一緒に考えたんだ。
アンケートデータという数字は大きな材料にはなるかもしれないけれど、表面上の問題だけでなく、数字に表れない隠された問題についても考え、仮説を立てながら解決していくことが重要。そこでまずは学生たちに、「遊んでいて親から怒られた経験を教えて」と尋ねて、次に「どうして親は怒ったんだろう?」と考えてもらったんだ。
「危ないから」「衛生面が気になるから」「服が汚れるから」「近所迷惑になるから」など、学生たちからさまざまな意見が出たよ。そして検証した結果、空き家を使って戸建て住宅そのものを公園にしてしまえばいいんじゃないか、というアイデアが出たんだ。
ーなるほど!それなら子どもが思いっきり遊べる上に、子どもに遊びの機会を与える立場である保護者の不安が解消されるわけですね!ー
講義ではサービスデザイン思考を用いて学生たちに考えてもらっているよ。サービスデザイン思考は「練習」が重要で、発想力も求められる。見えづらい課題を自発的に発見するということが大事だよね。大学の講義ではさまざまな方向からサービスの質や背景、お客さんにとっての潜在的な価値観などについて考えることができるんだ。
サービスデザイン思考を取り入れると、顧客満足度もアップする?
ーサービスデザイン思考は練習することによって、より有効的に使えるようになるとおっしゃいましたが、何か成功した事例はありましたか?ー
サービスデザイン思考を用いて、結婚式のプロデュースをしたことがあるんだ!大学の近くにある山名八幡宮を舞台にして、「ぐんまウェディングチーム」にも協力してもらったよ。まずは「結婚って何なのか」「何のためにするのか?」ということを考え、夫婦になる二人の絆を表現してみようということになったんだ。
ー絆!すてきですね。ー
絆をどう表現するのかということを考えながら、結婚披露宴やケーキ、テーブルのデコレーションについてもアイデアを出し、最終的には心理的に深い部分から考察して結婚式を作ったんだよ。
ー実際に体験することが大事なんですね!ー
今はAI化が進んでいるけれど、サービスデザイン思考による考えができるのはAIではなく、人間だと思う。AIができることと人間ができることは違うし、AIではプロトタイプ作成におけるのコストダウンや作業の効率化にはなるかもしれないけれど、地域の活性化にはイノベーションが必要で、デザイン思考が求められていると思うんだ。
ーなるほど!では最後に、これから大学進学を考えている高校生へメッセージをお願いします!ー
今の若い世代はITネイティブなので、その力を使って新しい考え方ができると思う。IT化が進む中、これからの社会に求められるのは、サービスデザイン思考を持つことなんじゃないかな。学術的にも実践的にも、サービスデザイン思考が身に付けられる環境がここにはあるよ!
先生の著書
『成熟経済下における日本金融のあり方―「豊かさ」を実感できる社会のために』
今回インタビューした教授
商学部 会計学科
前田 拓生 教授
著書
・共著『災害に強い建築物-レジリエンス力で評価する-』早稲田大学出版部(2018年)
・単著『成熟経済下における日本金融のあり方』大学教育出版(2013 年)
・共著『ソーシャルキャピタル論の探究』日本経済評論社(2011 年)
・単著『銀行システムの仕組みと理論』大学教育出版(2008 年)
論文
・単著「日本における住宅の経年減価についての考察」『日本建築学会計画系論文集 NO.722』(2016 年)
・共著‘Direct Supply Chain from Forest to House Builder: A Japanese Business Model’“Energy Procedia Vol61”(2014 年)
・単著「日本の住宅と国産木材の需給構造についての計量経済分析」『高崎経済大学論集第 55 巻第 4 号』(2013 年)
作品等
・共著『おカネが変われば世界が変わる』コモンズ(2008 年)
・単著『1 回でクリア証券外務員二種テキスト&問題集』実務教育出版(2008 年)
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』の金融・経済関連項目の執筆