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マンガ「石の花」のこと。

何となく書きたくなって、オススメの漫画について書いてみます。多分、足袋猫さんが「アンダーグラウンド」を見られて、久々にこれを思い出したからです。

これは、第二次大戦中のユーゴスラビアが舞台の話で、主にドイツ軍と対峙するユーゴスラビアの人々の姿が描かれています。

ユーゴスラビアは、「5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字」の存在する連邦国でしたが、第二次大戦中、主に独伊枢軸国側に付いたクロアチア人右派のウスタシ、セルビア人勢力で王政派のチェトニク、民族混在の共産党勢力パルチザン部隊の3つの勢力が国内で激しい争いを繰り広げました。

タイトルの「石の花」とは、スロベニアはポストイナ鍾乳洞にて、ストーリーの冒頭で、学校の先生が生徒たちに、石柱のことをあれは何に見えると問うたところ、「石の花」と答えた主人公クリロたちに、それを「まなざし」というのだと言ったことによります。このセリフは、作中幾度となく出てきて、戦争の悲惨さや理想と現実の狭間における人々の苦悩、正義とは如何なるものか、ということを毎回考えさせられることになります。

私もこの漫画をいつ知ったか、何がきっかけで知ったか今となっては記憶が定かではありません。多分ユーゴ紛争のことに関心を持ち、調べていて、何かの文献で知ったんだと思います。今回noteを書くにあたり、改めて読み直しました。きれいごとでは済まされない有事の際に、人はどう動くのか、何を考えて突き進むのかを自問自答し、考えれば考えるほど頭の中は混乱し、胸が苦しくなりながら読み進めました。誰もが主人公クリロのような感覚を持っていれば戦争なんて起こらない、でもそうはいかないのが現実なのだと。

また、この漫画のすごいところは、どの思想にも偏らず、あらゆる側面からの視点で描かれていることです。えてして、左右どちらかに傾きがちな書籍は多いと思います。また、ナチスドイツのみ悪と捉える描き方もできたと思います。でも事実はそうではありません。それを隠れ蓑にして、市井の人々の中にも黒い面を持ち合わせた輩は存在したし、実際そんな人々ばかりが描かれていて、主人公クリロやフィーは混乱させられるのです。

作者の坂口尚氏は、90年代初頭のユーゴ紛争が激化していく中、亡くなりました。「石の花」はあくまで第二次大戦中のユーゴスラビアのことが描かれているので、今の旧ユーゴ諸国の姿をもし彼が生きていたら、どう見るのか、どう感じるのか、とても気になります。

私はこの漫画を読んで、スロベニアを訪れました。どうしても「石の花」を見たかったからです。ポストイナ鍾乳洞を実際訪れてみて、観光地化された場所ではありましたが、あの当時、石の花に自分たちのまなざしを見たクリロやフィーのような人々が存在したのだと思うと感慨深くなり、行ってよかったと胸がいっぱいになりました。あと鍾乳洞の奥深くまで向かう時に乗るコースターっぽいのが安全管理は雑だけど、スピードが思いのほか速くて、そこはウケたのを覚えています。日本だったら考えられないなと。

はっきり言って、文字も多いし、難解な文言もあったり、直視できないような人間の業が描かれていたりもしますが、私にとってはあらゆる面で、世界が広がることになった大切なマンガです。機会がありましたら、ご覧下さい。

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