大谷翔平、猪木と馬場
WBCの準決勝の日、起きたら昼過ぎだった。翌日の決勝の日も起きたら昼過ぎだった。
ツイッターのトレンドがWBC関連で埋め尽くされてるのを2日連続で見た。
すごい試合だったみたいだ。見たら語るでしょう。何時間でも野球の話をしてしまう。
でも起きたら終わってた。
サッカーのワールドカップの生中継を見て思ったが、こういうのは見るべき乗るべきなんです。
その方が絶対に楽しい。
でもまあ、今回は起きたら終わってたので…
実はツイッターで決勝の優勝したとこの動画を見て、初めて大谷翔平という選手をちゃんと見た。
いや、チラチラと見てたし漫画的にスゴイってのも理解してたつもりだったけど、
大谷翔平、俺が思ってたのと違った。
日本の誇り、好青年、永遠の野球少年、圧倒的「強」、圧倒的「善」、ヒーロー、生ける伝説…
というイメージでたぶん間違ってはいないが、
あの、最後の打者を空振り三振で優勝をキメた直後の
ものすごいスピードでグラブを投げ、帽子を投げ、吠えた。
アレにシビれた。あんなカッコイイ動作はできない。
あんなカッコイイ、スポーツに興味が無い人もシビれさせる動作を試合中に瞬時にできるのは大谷翔平と、
アントニオ猪木だけだ。
スポーツ等のジャンルの垣根を越えて人々を魅了するのは結局、その人の表情、動作、所作であると思う。
「全身俳優」というか。
ネットやメディアから聞いてたのと違うじゃないか。英雄、善人、強者、それだけではないっぽい。
コイツ、まだ何かあるんじゃないか?まだ表に出してないカリスマ性が。
その時代ごとに「アメリカで一番有名な日本人」という言葉を聞く。
野茂だったりイチローだったり、スポーツ界以外でもいただろうと思う。
1960年代前半、アメリカで一番有名な日本人は
ショーヘイ・ビッグ・ババ、後のジャイアント馬場だった
らしい。
ピンと来ないが、本当にそうだったらしい。プロレスラーとして、メインイベンターとして大人気だったらしいのよ。
奇遇にも、ショウヘイという同じ名前だ。
1970年生まれの俺にも「馬場は強い」ってのはピンと来ない。
スローな動きで「ポゥ〜〜」などとモノマネされるジャイアント馬場しか知らない。
どう見たって猪木の方が強かろうもん。そう思ってた同世代の人は多いだろうと思う。
しかし大正生まれの祖母は
「日本人では馬場が一番強い。馬場に比べたら猪木なんて屁みたいなもん」
と言ってて、小学生の俺はそこそこ腹を立てていた。
この祖母は極悪非道な面を持っていて、夫である祖父がフィリピンで戦死しているのにヤクザの情婦をしていたり、まだ子どもの母がいるのにヤクザの男を何人か家に招いて花札的なことをしたりしている。
サラッと書くが、息子(俺の叔父に当たる人)が小学校を卒業すると丁稚奉公に出し、その反動で叔父は赤線の女と付き合い、その女と家に戻り、叔父は祖母の前で切腹自殺をしている。兄の切腹自殺を目の前で見た妹(俺の母親)はその反動で中学卒業後、集団就職で名古屋に行き、パチンコ台の中に入る仕事などをした。
パチンコ台の中に入る仕事って、台の裏から「リーチ!」「スーパーリーチ!」とか言うのかな、と思ったが、パチンコ台の中に人が入ってた時代があるみたいなんです。
そういう極悪非道な話は祖母が死んでから聞いたが、そのグレーな祖母と一緒によくプロレスを見てた。
ブッチャーを見ながら「ニグロを殺せ!」とか叫んだりもしてたんだけど、
覚えてるのは「猪木vsタイガージェットシン」という、当時の定番試合を見ながら祖母が俺に
「このシンっちゅうのは、キチガイのフリしとるけどのう、ホントはレスリングが強いんぞ。この試合、猪木がレスリングで負けるぞ。見よってみい」
って言ったんですよ。
いや、そんなことあるわけないやん?反則で終わるやろ。シンがちゃんと試合をする訳がない。
でもその試合、猪木がフォール負けしたんですよ。たぶん調べたら出てくると思うけど。
そういう「見る目」を持ってた。よく言ってたのは「世界で一番強いのはビルロビンソン」。ロビンソン?誰?と思ってた。
その祖母が「猪木より馬場の方がめちゃくちゃ強い」と言い張り、猪木を認めなかった。
馬場が年々弱っていくのは小学生の俺の目にも明らかで、PWF選手権試合でハンセンに完敗としか言いようのない負け方をした試合を見た祖母は寝込んでしまい、そのまま認知症になり、もう二度とプロレスを見ることはなかった。
その「馬場は強い」と祖母が言い張った理由が、去年、やっと分かった。
ツイッターのプロレスマニアの人が載せてた日本プロレス時代の試合の動画。
あの馬場がデカい身体でものすごいスピードで動き、跳び、蹴り、アメリカ人レスラーを圧倒している映像。
なんやこれは?「デカい佐山サトル」じゃないか?圧倒的フィジカル。圧倒的アスリート。
そりゃあ、「アメリカで一番有名な日本人」にもなるわな。
同時に子どもの頃から追っていた猪木への見方も変わった。
あんな圧倒的フィジカル・エリートに正攻法で勝てる訳がない。だから猪木はプロレスに「情念」「狂気」を持ち込むしかなかったのではないかと。
圧倒的アスリートの馬場がいたから新日本以降のカリスマ・アントニオ猪木が生まれたんじゃないか?
ただ、ジャイアント馬場の本当の全盛期って数年間しかなくて、映像も残ってないんですよね。
これは江川卓も同じ。江川の本当の全盛期は高2の秋から高3春のセンバツと言われる。映像はそんなに残ってない。
俺はプロレスは正直、よく分からない。試合内容とか技の凄さとか興味がない。
でも猪木の「動作・所作」が好きだった。特に試合前、試合後の一挙手一投足。目線。表情。何を言ってるのか分からないが何かを口走っている。
プロレスラーというより「全身俳優」の猪木に心酔した。
大谷翔平は圧倒的フィジカル、圧倒的アスリートな60年代の馬場の実力と、一挙手一投足で観客をシビれされる70〜80年代前半の猪木の全身俳優な魅力、カリスマ性を同時に持っている。猪木的なカリスマ性は底が無いし、闇もある。
猪木+馬場=大谷翔平。そういう見方もある。
圧倒的アスリート+表情と所作で人を魅了する全身俳優的な魅力。
猪木はその「所作」を鏡を見て練習してたと思うんですよ。想像だけど。
でも大谷翔平が所作の練習をしてたとは思えず、ナチュラルに全身俳優な所作が出てくるんじゃないかな。
ボクシングの井上尚弥もそうだが、世界を圧倒するアスリートが今、全盛期の状態で活躍している。俺たちはその時代に幸運なことに、生きている。
まあ、でも…だからと言って、全盛期の大谷翔平を追い続けるかというと、そうでもないんですよね。
「桁外れにスゴイ人」を見続けるとなんか、麻痺しちゃうとこが人間にはあって。一部のファン以外、「そのスゴすぎるスゴさ」に慣れてしまうところがある。
ネトフリ、アマプラがそうだが、人は「いつでも見れると分かると見ない」。
よくある、男女が同棲、結婚をして「いつでもできる」状況になるとレスになったりする。
人間はそういうところがある。
俺は佐山サトルがタイガーマスクをやってた頃、デビュー戦からの半年くらいは熱心に見てたけど、途中で飽きてしまったんですよね。
毎回スゴすぎて。スゴイものを当たり前のように見続けると麻痺して冷めたりする。
何10年も後に「あの頃の佐山サトル、すごかったな」と再認識し、「昔はすごかった」みたいな老害発言をしちゃう。
今現在、ものすごい選手がものすごい活躍をしてる。大谷翔平、佐々木朗希、村上。井上尚弥。
でもスゴイことを当たり前のように連続してやられると、麻痺することがある。
野球みたいな超・メジャースポーツでスゴイ!スゴイ!って世間が騒ぐと「うるせえな。もういいよ」みたいな声も出てくる。
眠くなったから寝よ。
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