中森明菜と「正邪」の世界
俺が中高生の頃の人気歌手だった中森明菜が再人気状態にある。
ヒット曲ばかりを歌った1989年4月のライブが再評価され、4Kリマスターされて放送され、ふそのライブが映画として全国のシネコンで公開される。
劇場公開されるライブの後には「現在の」中森明菜からの音声メッセージが流れるらしい。
幻だ。
この中森明菜再人気は「中森明菜・幻人気」とも言える。
中森明菜が突如ツイッターを始めた時、俺がフォローしている20代女性と思われる方が「私が明菜様と同じ空間に生きてるなんて…」と感激していた。
現在の中森明菜は生きていればいい。姿を見せなくていい。いや、姿を見せない方がいい。
仮に紅白歌合戦に中森明菜が出演したとして、最先端の技術を使い、極限まで中森明菜をボンヤリ映した方がいい。
「あの紅白の中森明菜は本当に中森明菜だったのか?」と考察されるレベルでいい。
そこまでして人前に出てくる必要があるか?とも思う。
先述した1989年4月のライブの3ヶ月後、中森明菜は自殺未遂をして、その後は第一線から退き、今に至る。
90年代のライブ映像やテレビ出演時の映像もYouTubeで見ることができるが、明らかに80年代より歌えていない。
中森明菜がデビューして40年ほど経つが、歌手としての全盛期は1982〜1989年の7年間しかない。
殆どの人が思い描く中森明菜は、その7年間の中森明菜のどれかだ。俺もそうだ。
現在の中森明菜の人気はYouTubeの違法アップロード動画によるものである。
それは否定できない。
それらの動画で中森明菜を知った人が多いと思う。
少なくともテレビではないだろう。
正邪の白黒をハッキリ付けようとする今のネット空間の価値観で考えると「邪」となる。
「邪」だから全部消すか?様々な中森明菜ファンが自身のVHSビデオをデジタル化し、場合によっては4K高画質化までしてくれてる莫大な中森明菜の7年間の美しくカッコイイ姿を。
以前、CSのTBSチャンネルで「ザ・ベストテン」をリマスター化して放送したことがあった。
TBSがやってるのだから「正」である。
しかし、その「正」な番組は見てて不可解な映像であった。
顔にモザイクがかかったまま出演者席に座っているアーティストが7人くらいいた。誰だ?犯罪等でテレビに映すことのできない人か?…と考えたが、アレはサザンオールスターズであることを後で知った。
肖像権なのか著作権なのか分からないが何らかの大人の事情でモザイクをかけないといけないらしい。
「正しくないから」という理由でYouTubeで今は見ることができている中森明菜全盛期の動画を全て削除し、公式が「正しい動画」を配信するとなると何らかの大人の事情で先の「ザ・ベストテン」の再放送のようにおかしなことになるのだ。
弱小事務所所属のアーティストでありながら全米1位まで駆け上がった成功例として韓国のBTSがいる。
実力がある、というだけで売れるとは限らない。
BTSを売り出した事務所の戦略として「著作権をわざと緩くした」というのがあるらしい。
公式のMV等だけではなくYouTubeにはファン達が編集し各国の言語でのテロップを入れたBTSの動画が無数にある。
俺も娘に見せてもらったが、おそらく日本のテレビ局が編集したらこんなに面白くはできないだろうな、と感心するほど巧みに編集された、BTSに詳しくない俺が見ても楽しめる動画だった。
そういうのはもう、素人の方が上手いのだ。視聴者側の方が「何が見たいのか」を知っているからだ。
グレーのままにしておいた方が良いこともたくさんある。
ネットで正義を盾に誰かを攻撃してる人も違法アップロードされたエロ動画を見たことがあるだろう。
ないのか?ほうか。ほんならそれでええ。
エンタメ、映画でも音楽でも文学でもスポーツでも何でもいいが、
視聴者側の人生を狂わせてナンボだと思っている。
正しい論理や法律では解決できない、各々が抱える問題を「まあいいや」と緩和させてくれるのが娯楽の役割だと思っている。
真正面から正視して考えたくない、考えてもどうしようもない問題を抱えている人は多数、いると思う。俺にもある。
それらを忘れさせ、ひとときでも夢を見させてくれる人たちは別の世界に住んでいてほしいと俺は常々思っている。
「自分が好きな人(推し)が善人であってほしいムーブ」が当たり前のように広まっているが、人の人生を狂わせてしまうくらいの才人を俺たち凡人の枠に収めようとするんじゃねえよ、と思ってしまう。
凡人として生きていくことが不可能、模範的な生活を送ることができない「社会不適合エネルギー」に溢れてるからこそ、凡人の俺たちを酔わせ、狂わせることができると思っていたい。
「善人であってほしい」というのも勝手な夢、「社会不適合者であってほしい」というのも勝手な夢であり、本人達からすれば迷惑であることに変わりはないのかもしれないが。
(2102文字)
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