私たちは人間でした。

円屋さんには「私達は人間でした」で始まり、「忘れたままでいてください」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
shindanmaker.com/801664

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 私たちは人間でした。そう、思い出しました。私たちは人間だったのでした。こうちゃんはおとこのこ、私はおんなのこ。魔法を使える家に生まれて、幼い頃からいつも一緒でした。あなたは背が高くて、私、隣であなたをいつも見上げていた。あなたはいつも前を向いていましたね。じっと見つめて、少し首が痛くなるくらいの頃、あなたが膝を折って、私の顔を覗き込んでくる瞬間の、やさしい瞳がすきでした。おうちで美しい魔法をたくさん習ったけれど、こうちゃんの瞳に勝るもの、私は見たことがありません。
 私の背がすっくと伸びて、首が痛くなくなるくらいの年頃に、なんだかすきが溢れてしまって、私の気持ちを伝えたら、あなた、あまりに慌てて、顔を真っ赤にしていたの、よく覚えている。「えっ」「うれしい」「ぼくなんかでいいのか」「ありがとう」「きみにはもっと…」「つきあおうか、ぼくたち」、あなたったら、支離滅裂でしどろもどろ。おかしくて、愛おしくてしょうがありませんでした。幼なじみから恋人にステップアップして、2つの家柄が1つになって久しい頃、私たちの間にこどもが生まれましたね。ひーちゃんは、私たちのDNAのいいとこ取りをしたのか、魔法に愛された子でした。赤ちゃんの頃から、無意識のうちに魔法を使うことができて、私たち、とても喜びましたね。でも、その小さな体に秘められた魔力は強すぎて、ひーちゃんにはとても制御が利かなくて、あるときあの子はたくさんのお友達を傷つけてしまった。ひーちゃんが特に仲良くしていた子にも、もう会うこともできなくなってしまった。
 すごくすごく重い罪を、私たち家族は償わなければいけませんでした。昼も夜も、責めたてられました。地獄の季節がやってきたのだと思いました。ひーちゃんはずっと泣いて、疲れて眠って、起きては泣いて、眠りながら泣いて、目も当てられないような状態になってしまった。このままでは死んでしまう、それくらい追い込まれていました。
 だから、私たちは決めました。あの子を守るために、ひーちゃんの中から魔法を消すことを。あの子の罪を、最初からなかったことにすることを。これは禁忌魔法によってのみできることで、とても悩んだけれど。私が、こうちゃんと同じ瞳を持つひーちゃんのこと、守りたいと言ったら、あなたは優しく頷いてくれました。そうして私たちは、私たちのすがたかたち、存在を担保に、呪いを唱えたのでした。強い光が瞬いて、私たち、もうヒトではなくなりました。ひーちゃんに会うことも、話すこともできない存在になりました。ひーちゃんは、私たちのことをもう覚えていません。ひーちゃんの罪を知っている人も、もう誰もいません。不幸な話だと思うかもしれないけれど、いいの。私たちの魔法が、ひーちゃんを守っていく、それだけでいいの。あなたを傷つける魔法のことはもう思い出さないで。どうかずっと、忘れたままでいてください。