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[懐疑] 爆音は必要か

管楽器の演奏の中で「大きな音」を求められる時があります。

もっと吹いて!
聴こえない!

そうして顔を真っ赤にして吹く学生さんたち。

わたし自身は、その訓練の中で比較的「大きな音」で吹くことができるようになりました。
使用しているマウスピースも大きな音が出やすいものを選んでいます。
でも、身体に負荷をかけるようなやり方でがむしゃらに吹き込む方法では音はある程度までしか大きくなりません。

いろいろな人から言われる「聴こえない」は数値の問題ではないのです。

ひとつは音程。日本では「ピッチ」とよく言いますのでわたしもそういうことがありますが本来は「イントネーション」と呼ばれるべきです。
この「音程」という言葉は本来「異なる二音間の音高の距離」を指すもので、現場でよく使われる「音の高さが合っているかどうか」を示す言葉ではありません。
めんどくさいのでいちいち言い換えていませんが、頭の片隅に覚えておくとよいと思います。

それでこのイントネーションがずれていると、きれいに響きませんよね。
聴き手の耳にはノイズに感じられます。
つまり楽音として認識しずらいところから本来あるべき音が出てきていないと思われるわけで、それで「(本来の音が)聴こえない。」ということになります。


次にリズム
例えば遅れて出てしまったりするとその音は「埋もれ」ます。それが髪の毛一本分の遅れであっても聴き手にはきちんと認識しずらい状態になります。
ですので周囲ときちんと合わせて音を出すことが重要です。
ついでに言うと「音の立ち上がり」が遅くても同じことが言えます。

よくサックスは「立ち上がりが遅い」と言われますがこれはただの訓練不足です。

確かにフルートや金管楽器に比べると立ち上がりは遅めです。
しかしこれはタンギングのタイミングが遅いため起こる現象です。

タンギングとは舌をリードにつける行為ですが、舌がリードにつくと音は止まります。
メトロノームが鳴るときに同時に舌をつくと、そこで音が止まりますよね。

音は、舌を離したときに発音されます。つまり正解は、メトロノームが鳴るときに舌を離さないといけないのです。

このように発音のタイミングが遅いとその人の音が「聴こえない」となるわけです。

遅いから聴こえないとかイントネーションが悪くて聴こえないという理由までは指導者さんや聴き手の側からは指摘されないので、「聴こえないからもっと大きく吹いて」ということになりがちです。

つまり、大きくない音でもしっかりくっきり発音し、グリッドに沿った(周囲とタイミングやイントネーションを合わせる)ように演奏していればちゃんと音は聞こえるのですよね。

さらには、イントネーションとリズムが複合した要因もあります。
例えば長い音価の場合で出だしのイントネーションが低く、途中から合ってくるような場合がたくさんあります。
このような場合、たとえリズムが合っていてもそうではないように聴こえてしまいます。当然聴き手の耳には届きません。

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それでも、「爆音」に説得力は皆無かというと実はそうではありません。
いざとなったら、これだけの音量で吹ける、というのは「余裕」につながります。
そして、生の楽器の醍醐味の一つは「ダイナミクス」です。
音量の上限と下限の差。

下限は下限でもちろん重要です。
しかし小さな音はある程度までいくと本当に聴こえなくなるので練習の中では本当に微かな音量まで使えるようにしておくのが良いのですが、実際の演奏では限りがあります。
対して上限は無理をせずどんどん上げられるならば上げておきたいのです。
もちろん練習の中でだけ発揮する能力ですが、普段からのトレーニングにより本番で使用できる上限音量が上がるのは「余裕」につながります。

実際の演奏においては何が起こるかわかりません。
マイクシステムがダウンした、誰かが曲構成を間違ってしまう。
曲のクライマックスでスフォルツァンドが欲しい。

ある意味、「爆音」はいざというときに有無を言わさずリーダーシップをとって発言するための「強行力」とも言えます。

京都在住のサックス/フルートプレイヤーです。 思ったことを自分勝手に書いていきます。 基本、内容はえらそうです。