君の手がくれた「おと」は…1
僕には他の人とは違う事がある
それがある僕に近づく人はいない
だけど君は違った…
君は僕にくれたものがある
だから僕は今、幸せを感じる事ができる
僕はある企業に入社した
部「え〜、この度、遠藤○○君が我が部の仲間になる」
パチパチパチ
部「しかし、彼の耳は聞こえないらしいが、筆談でなら理解できるので、どうか仲良くしてやってくれ」
部長さんが僕の肩を2回叩く
だから僕はお辞儀だけをした
みんな顔は笑ってても目が笑ってない
わかってる…
僕はここの厄介者だって…
僕のデスクにはPCだけがある
周りのデスクには電話もあるが僕のところにはない
孤独…孤立…それはずっと味わってきたから慣れている
周りはどんな音がするのか…
どんな声なのか…
「おと」がある世界とない世界
味覚、視覚、嗅覚、触覚はある
神様はなぜ…僕には聴覚を与えてくれなかったのか…
トントン
肩を叩かれ振り向くと1人の女性が笑顔で立っていた
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今日は1人社員が入ってくる
私にも後輩ができる
名前は遠藤○○君…遠藤?後でさくに知り合いか聞いてみよう
しかし、彼は耳が聞こえないと…
筆談で大丈夫と言われたが…
部「賀喜!」
遥「はい!」
部「遠藤君の教育担当頼めるか?」
遥「他の先輩は…」
部「みんな、障害があるからと…」
遥「ですよね…でもいいんですか?
私なんかで…」
部「彼には申し訳ないが、雑務を中心に…
あとはPC出来るらしいから打ち込みもやらせてみるのも…」
遥「はぁ…わかりました」
部長から教育担当を任されて彼の元へ
耳が聞こえないから肩を叩くと彼はこちらを向いた
私はメモに名前と、今日やる仕事の内容を書くとペコりとお辞儀をされた
その後のコミュニケーションはほとんどない
遥「いいのかな…これで…」
トントン
肩を叩かれ振り向くと○○君が…
○(打ち込み終わりました)
遥「えっ?」
時計を見るとまだ1時間…速い!!
私はメモでコピーを頼むと彼はまた自分のデスクに戻って作業を始めた
私は彼に何故か興味を抱いた
______________________
僕の前にいる女性は「賀喜遥香」さん
黒髪が綺麗で美人
なんでも僕の教育担当らしく、今日の仕事の内容を渡された
姉とは大違いの凛とした人
さて、今日の仕事をやりますか…
こういう集中したい作業で耳が聞こえないのはなんか得をした感じになる
言われた仕事が終わり報告をしに行く
トントン
終わった事を知らせると驚いた顔をされた
何故、そんなに驚いているのか…
壁にある時計を見るとま 、まだ1時間位しか経ってなかった
そういうことか…
その後、それをコピーしてファイリングをして部長に提出
部長も驚いた顔をしている
耳が聞こえない分、周りの気配や嗅覚の感覚が人よりも強い
なにか見られているが僕は気にしない様に仕事に戻る
17時、周りが一斉に帰宅の準備を始めるがあえて気づかないふりをした
トントン
肩を叩かれ振り向くと賀喜さんが時計を指差す
僕はメモでこれが終わったら帰る事を伝えるとメモを手渡してきた
遥(無理はしないでね?お疲れ様)
それを見た僕は1回頷き、作業に戻る
と、言ってもコピーをしてファイリングするだけ
時刻は18時を過ぎた頃に仕事を終え、どこにも寄ることも無く家に帰宅した
家族は僕以外健常者なため、1度インターホンを鳴らしてから家に入る
玄関を開けると母親がいて
母(お帰りなさい)
○(ただいま)
手話で出迎えてくれた
○(姉貴は?)
母(お友達とご飯食べて来るって言ってたよ?)
○(じゃあいいや…部屋にいるね?)
母(今日はどうだった?)
○(働きやすい環境かな?)
母(よかったね?無理だけはしないでね?)
○(わかってる…それじゃあ…)
部屋に入り着替えてベッドに横になるとそのまま意識を手放した
翌日、めんどくさい事になるとも知らずに…
___________________
17時の終業のチャイムがなると私はまだデスクで仕事をしている○○君の元へ
彼の肩を叩き、振り返った所で時計を指差すと、やり途中の仕事を終えたら帰るとメモで言われた
私はメモで「無理しないでね?お疲れ様」とだけ残した
どうしても気になることがあり、知り合いに連絡を取る
駅前の広場で待ち合わせをしていると
?「かっきー!」
大声で叫びながら走ってきた
遥「大声出さないの!恥かしいでしょ?さく〜」
さ「えへへっ…ごめんね?それでどうしたの?」
遥「それはご飯食べながらにしてもいい?」
さ「いいよ?久しぶりだしね?」
私達は駅前のファミレスへ
ご飯を食べながら世間話に華をさかせる
遥「今日さ、新人が入ってきたんだ〜」
さ「かっきーに後輩か〜
どんな子?」
遥「耳が聞こえないんだ…」
さ「えっ…」
遥「どうしたの?さく…」
さ「ねぇかっきー、その人の名前は…?」
遥「遠藤○○君って名前だけど…なんで?」
さ「それ…弟なの…」
遥「えっ?」
さ「誰にも言ってないんだ…言ったらみんなに気を使わせちゃうから…」
遥「そう…だったんだ…なんかごめん…」
さ「大丈夫、それで?○○はどんな感じ?」
遥「仕事は速いよ?丁寧だし…」
さ「迷惑かけてないならよかった…
あっ!かっきーちょっとごめん」
遥「えっ?」
席から離れて入口に向かうさく
そこには店員さんとお客さんがいた
そして、私はびっくりした
さくとそのお客さんは手でなにか信号のような事をしていた
そしてにこにこしてさくが戻ってきた
さ「ごめんね?」
遥「大丈夫だけど…さっき何してたの?」
さ「あ〜、あれはね手話なの」
遥「手話?」
さ「うん、あれで会話出来るの…
もう…使ってないんだけどね?」
遥「手話…」
私達は少し話をして解散した
帰り道、さっき言ってた手話の事が頭から離れない
そして、私は思う…
どうしたら○○君と話せるか…
遥「手話…」
目の前には本屋がある
ふらっとお店に入り本を探す
遥「手話…手話…あっ、あった…」
手にしたのは手話入門編と書かれた本
中を軽く見ると結構書いてある
しかもわかりやすい
それを購入して家に帰った
部屋に入り、着替えを済ませて手話の本を読む
遥「ちゃんと見ると結構大変…」
携帯で手話の動画を見ながら本も見る
ある程度して布団に入り寝た
翌日、彼を会社の入口で待つ私
そして、彼を見つけ、目が合った
よし、今だ…
遥(おはよう)
彼は驚いた顔をして止まった
これが私と○○君の距離を縮めた一歩目だった
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翌朝、母親に起こされ仕事へ行く準備を始める
リビングで朝食を食べて家を出る
携帯を見ると姉貴からLINE
「かっきーに迷惑かけるなよ!」
かっきー?あぁ…賀喜さんの事か
「大丈夫、耳が聞こえないから話すこともないでしょ?」
LINEを返して会社へ…
人よりも早めに会社へ行くと、入口に賀喜さんがいた
目が合うと同時に驚いた
遥(おはよう)
なんで手話を…
僕はどう対応していいかわからず会釈だけをした
賀喜さんはなんだか嬉しそうに会社へ入って行った
そしてしばらく考えると…
(かっきーに迷惑かけるなよ!)
そういう事か…
姉貴がなんか話したんだと思った
僕は姉貴に「夜、話がある」とだけLINEを打った
仕事が始まると、昨日と同じ作業の繰り返し…
耳のおかげで営業すら出来ない
そしてお昼休み
僕は屋上でお弁当を食べる為、到着すると賀喜さんがお弁当を食べていた
何やら本を読んでいる
カバーが付いていてなんの本かわからなかった
お弁当を食べ終えて、スーツのポケットから小説を出し読もうとするが、賀喜さんが何故か気になり見ると…
○(えっ?)
賀喜さんが見ていたのは明らかにわかる
朝の手話といい、今、彼女が見ているのは手話の本だ…
僕は静かに屋上を出て早めに仕事を始めた
お昼以降、何事もなく仕事を終えて帰宅すると姉貴の靴があった
部屋着に着替えてからリビングへ
テレビを見ている姉貴が僕に気づいた
さ(話ってなに?)
○(賀喜さんに手話の事話した?)
さ(話したというよりも見てた)
○(見てた?)
さ(実はね…)
昨日の出来事を姉貴は話した
○(なるほど…)
さ(かっきーがなんかあったの?)
○(賀喜さん…手話を覚えてきた)
さ「えっ?」
驚いた顔をする姉貴
○(姉貴に頼みたい…賀喜さんに僕とは必要以上に関わるなって…)
さ(それは無理かな?)
○(なんで?姉貴が言えば…)
さ(かっきーは納得するまでやる人だからだよ?)
○(意味が分からない…)
さ(わからなくていいよ、多分かっきーは○○と仲良くなりたいと思ってる)
○(なんでわかるのさ?)
さ(親友だからね?)
○(僕は誰とも仲良くなる事はしない…もう…)
さ(かっきーはそんな人じゃないよ?まぁ、見てればわかるよ)
姉貴はそう言って部屋へ戻った
そして、僕が恐れていた事が現実になる
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手話を覚えてきた私は○○君にアピールしていた
遥(○○君、週末暇?)
○(まぁ…)
遥(なら、さくと3人でご飯行かない?)
○(いいですけど…なんで僕にかまうんですか?)
遥(えっ?)
そういえば、なんでって…
○(無理して手話覚えなくてもいいですよ?メモで十分…)
遥「○○君が仕事しやすい様に覚えたのに迷惑なんだね!」
私は感情が爆発してしまった
私の声に周りが一斉に見てくる
それが恥ずかしくなり給湯室に逃げてしまった
遥「なんで…」
?「かっきー?」
振り向くと同期の真佑がいた
真「どうしたの?あんなに怒鳴って…」
遥「実は…」
真佑に全部話すと…
真「さくちゃんの弟なんだ…かっきーはなんで○○君の事を気にするの?」
遥「なんでって…」
真「さくちゃんの弟だからだけじゃないでしょ?」
遥「○○君の笑った所見たことないんだよね…それに、障害者だからって…」
真「じゃあ、○○君の気持ちは考えた?彼はどう思ってると思う?かっきーの行動はお節介…」
遥「わかってる…でも…初めて出来た後輩だから…」
真「だからって手話まで覚えなくてもいいんじゃない?」
遥「私ね…気づくと彼を…○○君を目で追ってるの…」
遥「気づくと明日はいろいろ話したいって思う…
そんな事を考えるとドキドキするの…」
真「かっきー、○○君に恋してるんだね?」
遥「恋!?」
真「好きなんでしょ?○○君の事?」
遥「気になってるけど…」
真「じゃあ、○○君が他の子と仲良くしてたら?」
この時、私は真佑に言われた事を想像すると胸が痛くなり手で抑えた
真「そうなってる時点で好きなんだよ
苦しくなってる」
遥「どうしたらいいのかな…」
真「さくちゃんに相談してみたら?○○君のお姉ちゃんなんだから」
遥「真佑…」
真「私は○○君の事はほとんど知らないから…でも応援する
だってさ?かっきーが○○君と手話で話してる時、めちゃくちゃ乙女だったもん?」
遥「恥ずかしい…」
真「ほら、お化粧直して仕事するよ?」
真佑のおかげで私の気持ちは真っ直ぐ前を向いた
絶対振り向かせる!!
そうと決まれば、へこたれてる場合じゃない!
私はさくを仕事終わりに呼び出した
さ「かっきー?どうしたの?」
遥「さく、私ね?○○君が好き!だから協力して…」
さ「かっきー…わかってる?○○は…」
遥「わかってる…だけど気持ちが抑えられない」
さ「…まゆたんからある程度は聞いてたからわかるけど…」
遥「それじゃあ…」
さ「ひとつだけ!障害者は特に周りを気にするから、ストレスが溜まりやすい、だから気をつけてね?」
遥「わかった」
さ「じゃあ私はこれで…あのバカにもやらないといけないことあるからさ?」
遥「さく?」
さ「ん?」
遥「ありがとう…」
さ「大変なのはこれからだからね?」
遥「わかってる…」
さくと別れ帰路につく
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週末の午後
せっかくの休みは2人によって潰されていた
さ「かっきー?手話どれだけ覚えた?」
遥「○○君があんまり反応してくれないからわからないんだよね?」
○(俺ですか?)
というか2人で会話しながら手話しないでくれと思う
さ「でも結構、様になってるよ?」
遥「本当?」
さ「本当だよ?○○が性格悪いだけだし」
○(だからなんで、手話しながら…)
さ(○○さ?かっきーがなんで手話覚えたかわかる?全部○○の為なんだよ?)
○(僕の為?なんで…)
さ(それはかっきーから直接聞きな?それに、○○だってかっきーの事気になってるでしょ?)
○(それは…)
遥「さく?」
さ「あっごめん、○○にお説教してたの」
遥「お説教?」
さ「うん、女心を勉強しろってね?」
遥「ち、ちょっと…」
さ「私はこれで失礼するね?」
遥「えっ?」
○(はぁ?)
さ「かっきーはちゃんとする事」
さ(○○はしっかり考える事!)
そして、姉貴はいなくなるとふたりは沈黙する
時間にして数十秒だが、2人には数分と感じる
その沈黙を破ったのは賀喜さんだった
遥(○○君はさ…彼女とか作らないの?)
○(出来ませんよ…こんな耳が聞こえない男なんか…)
遥(そんなことない!私だったら…私が○○君に聞こえない「おと」を感じさせる…)
○(賀喜さん?)
遥(私は○○君が好きです…さくの弟とか耳が聞こえないとか関係ない…)
○(僕の「おと」はなんなのか考えたことはありません
周りに気を使わせない様にとかばかりです
でも…今、思ったのは僕の「おと」って幸せじゃないかって思います)
遥(○○君…)
○(姉貴の笑った顔も久しぶりに見ましたし、賀喜さんが笑った顔も僕には眩しいくらいです…)
遥(すぐに決めなくていいよ?私は気持ちだけでも伝えたかったからで…)
○(いえ、僕はこんなですが…
賀喜さんの隣にいさせてください)
僕の言葉に賀喜さんは笑顔で涙を流した
それはとても綺麗で美しい
僕はどうしても彼女の笑顔を守りたいとそう思った
どんな事があっても…
僕の「おと」は決して…
……To be continued
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