伊東歌詞太郎を通して得た、希望と決意


2023年5月5日、Zepp Dver cityにて、
伊東歌詞太郎のワンマンライブが行われた。
2月11日の埼玉公演から始まり、
全国15箇所を回った『Storyteller』ツアーの最後の日である。
ただ本人はこの公演を、ツアーファイナルではなく『Storyteller〜Let there be light』と新しく定義した。
伊東歌詞太郎自身も、「東京は全く違うセトリをやるから!」と、各地で伝えていた。

「光あれ」、そう付けたタイトルは、一つの祈りのようなものだったと、ライブを見た今、強くわかる。

ライブ前に会場に流れていたのは、歌詞太郎さんが尊敬してるというthe pillows。
何十年もかけて武道館に立ったところがかっこいいんだと過去に話してたなと思い返しているうちに、時計が18時を指し、定刻通りライブがスタートした。

バンドメンバーが出てきた後に、客席をしっかり見つめながら、センターに歌詞太郎さんが立ち、一曲目の『Storyteller』が始まった。
今ツアーのテーマとして、各会場でも一曲目に歌ってきた曲。
今の想いを全て詰めたというその曲を、
優しくも力強く歌う。

「強くなれた僕だから 君と歩いてもいいよね また」と、客席を右から左へ眺めながら、噛み締めるようでもあった。

その次に歌われたのは『惑星ループ』。
宇宙の映像をバックに、歌詞太郎さんも客席も飛び跳ねる。人差し指を上で回しながら、一体感とワクワクが増した。

この流れだと次もアップテンポの曲が来るのかと思っていると、前奏で聞こえたのは電子アラームの音。
恐らく、あの会場の殆どの人が息を呑んだ瞬間だと思う。

来た曲は、『S.O.S』だった。
この曲は、2017年10月21日に発表された『二天一流』というアルバムに入っている曲だ。
このアルバムがを引っ提げたツアーの中で歌詞太郎さんは、喉の不調と活動を休むことを告げ、そこから一年弱歌うことができなかった時期がある。

その時の痛みや苦しみが、恐らくこの曲には、色濃く投影されている。

この曲がライブで最後に歌われたのは確か、2018年7月25日の『HAPPY REBIRTHDAY」。
手術を終え、復帰ライブの日の三曲目に歌ったのが『S.O.S』だった。

2018年のあの日、「助けて誰か僕のことを」から始まるサビを通して伝わってきたのは、怖いほどの怒り。
叫ぶように歌われた姿を見て、苦しさを受け取った。

そんな思い出のある曲だからこそ、約5年ぶりに歌われることに、息を呑んだのだった。

しかし今日の目の前に居たのは、笑顔で歌う歌詞太郎さんだった。
怖さも息苦しさもなく、軽々と歌う。

「魔法使いはどこにいる?」の歌詞で天井を強く指さす。
5年の時を経て、やっと自らで、自由自在な光を手にしたのだと思った。

そして曲が終わり、歌詞太郎さんが口を開いた。

「今日もきてくれてありがとうございます。
 ツアーだとかそんなのもうどうでもいいよ。今日この場所に来てくれたってことが、この瞬間が嬉しい。
そして今日はZepp。ここに立つってなかなか出来ることじゃないんだよ。」

「今までのツアーは、Storytellerというストーリーの中に三曲があって、今日はどの物語を届けようかなってセトリを組んできました。でも今日は、Storytellerを表紙に、三曲のストーリーを詰め込みました。今夜は満月!満月になると人はテンションが上がりやすい!楽しんでいってください」

ライブに込めた想いを告げた後、
鬼気迫る勢いで歌われたsenseitoseito。
テンポが速いだけでなく、歌詞の言葉数が多い難しい曲を軽々しく歌い上げる。
歌いながら声量も上がり、最後には叫ぶように歌い、一気に鬼才の空気へ引き摺り込む。

そこから勢いそのままに『TEL-L』。
強さの中に優しさがあり、「会いたいよ」と何度も囁き、曲が閉じた。

次に歌われたのは『夕立のりぼん』。
ドラムの前奏とともに歌詞太郎さんの表情が変わる。
歌詞太郎さん本人も、歌う時は憑依している感覚だと言っているが、まさに憑依しているのが見えるのがこの曲である。

バンドアレンジで曲のスピードを通常よりも早め畳み掛ける。
声、手、目、全てで曲を表現する姿に、目の前にいるのが伊東歌詞太郎だと言うことさえ分からなくなるようだった。
曲の中にある叫びを、歌詞太郎さんという器を持って、客席へ訴えかける姿は、何度見ても慣れる気がしない。

その後明転してMCを話し出したのは、いつもの歌詞太郎さんで、少し安心する。

「今回、僕が書かないような曲を書いてもらいました。senseitoseitoとかとんでもないよね!ライブで歌えるかなって思った。でも歌えるようになるんですよね。前回だとチルドレンレコードとか、高音のWORLD’ENDも挑戦だったけど、もう余裕なんですよね」

その言葉に自然と客席からは拍手が上がったのは、安堵からくるものだったのだろう。

「今日のライブ一度もリハできてないんです(笑)!裏で、いつ断る?とか言われてたらどうしよ!」

その言葉に次は、歌詞太郎さんの周りのバンドメンバーが笑う。
そこには、信頼と安心感があった。
何年も同じバンドメンバーでツアーを周り、一人一人が音を楽しんでいる姿を見てると、バンドメンバー含めての「伊東歌詞太郎」なんだと、嬉しくなる。

その後始まったのはVirtualistic Summer。
曲の間にみんなで歌う部分がある。
ようやく今年になってから声が出せるようになり、この規模で声を出せたのは3年以上ぶりだろうか。
歌詞太郎さんの歌声に応えるように、客席からも大きな歌声が返ってきた。
これもきっと、今回やっと見えた「光」なのだろう。

そこから続くは、『真夏のダイヤモンド』。
一気に会場が夏に引き込まれ、歌詞太郎さんが客席向かってピッチングをする仕草を見せた。

「1.2.3.4!!」で会場全員が声を出し、
「勝つまでやめるな」で全員が上に拳を突き上げる。
野球がテーマの曲だが、勝つまで戦い続けてきた歌詞太郎さんだからこそ、力強さを感じる。

次に来たのは、『Calc.』。
歌詞太郎さんが初めて出したフルアルバム
『一意専心』に入っており、今ツアーで久しぶりに披露されたその曲に、客席からも声が上がった。
切ない歌詞とは裏腹に笑顔で客席に投げかけるように歌われた。
サビでは客席を強く指差し、時折頷きながら、確かめ合うようだった。
私自身も、長い年月を言葉で、一つ一つ噛み締めるような気持ちになった。

「7箇所くらい回ったときに、今回のツアー、バラードがないなって気付いたんです。それまでは全然気づかなかった(笑)でも今日のセトリにはあります!安心して!」

歌詞太郎さんのライブで、バラードがないのは非常に珍しい。
歌詞太郎さんの辛い経験や思いが色濃く出ている曲は、バラードが多い気がしている。
だからこそ、無意識であったとしてもバラードがセットリストにいなかったということが、新たな変化のようで、とても嬉しく感じた。

今回用意されたバラードは、
『さよならだけが人生だ』
『ひなたの国』

『ひなたの国』を歌い終わった時、
歌詞太郎さんが顔を抑え下を向いて動きが止まり、
「今の雰囲気に引きずられないで!」と一言。
赤い目で笑う歌詞太郎さんがスクリーンに映し出され、そこから『革表紙』へと曲が繋がれた。

そして次に歌われたのは、『真珠色の革命』。
この曲は、先述したように、歌詞太郎さん自身の想いが強く込められているバラード曲。

「あなたのためなら何にでもなってやるさ」は『Heeler』を、

「誰かの何かになれたら」は、『おねがいごと』を

「伝えたい言葉はあなたの心に届くと信じて」は、『次は、九段下』を、

勝手に連想してしまうのは、何年経ったとしても、歌詞太郎さん自身が伝える言葉・想いが変わらないからだと思う。

音楽に全てを捧げ、困難があろうと走り続け、足を止めなかった歌詞太郎さん自身の強さと決意を感じた。

その後の『STARLIGHT』は、難しいリズムを物ともせず、天井を強く指差しながらも、目を閉じ、一音一音確かめるように歌い上げた。

「東京は、前半映像と一緒に音楽を届け、後半は後ろにライブ姿を映す二部構成になってます。」

その後、飼い猫だったみみちゃんへの想いを語りながら、新曲の『猫猫日和』を披露した。
大切な思い出の一欠片を手にしたような暖かい曲だった。

そこから来たのは『絆傷』。
一番の歌詞はタイアップとして、二番は自身の思いを込めた曲。
こころとからだ、そのどちらもが満たされることは、歌詞太郎さんはずっと待ち望んできた「光」だったと思う。

少しの怒りのようなものを混ぜながら、声を荒げ、力強く歌い上げた。

「絶対勝つまで負けるな」は、私たち自身からの歌詞太郎さんへの思いでもある。
歌詞太郎さんも、そして私たちも、強く拳を突き上げ、思いを共有した。

そこからは、アップテンポのナンバー、
『スプリングルズ・サワークリーム』、『I Can’t Stop Fall in Love』が続いた。

思いっきりタオルを回し、掛け声を叫ぶ。
コロナ禍で声が出せなかったことを忘れるくらい、お互いが全力で答えた。

そして早くも次が最後の曲。
最後に歌われたのは、ここ最近のツアーでいつも歌われる『magic music』。

こんなにも音楽を心から信じ、また会いたいと声をあげてくれるアーティストが他にいるのだろうか。
誰よりも音楽を信じ、後ろを向かずに歌を届けてくれるのは、歌詞太郎さん自身が「歌が好きだから」だけでなく、ファンとともに「音楽を体感する」ためもあるのではないかと、少し思う。
だからこそ私は、もっと多くの人の前で、大きなステージで歌詞太郎さんが歌うことを、心から願わずにいられない。

何度も感謝を口にしながら歌詞太郎さんが捌け、一息おいて客席からアンコールが起きた。
客席全体で手拍子を通して、歌詞太郎さんを呼んだ。

しばらくして、歌詞太郎さん一人ステージに戻ってきた。

「アンコールありがとうございます。」
そして、このツアーの思いをもう一度伝えた。

「去年の末ごろに、Storytellerだなって思える瞬間があった。どんな曲でも歌うことができるようになって、ストーリーテリングできてるなって。
岡山で中打ち上げをした時に、とあるスタッフの方が、「今回のツアーが一番楽しい」って言ってくれた。まあ、自分はいつでも最新のツアーが一番なんだけど(笑)!
その時に、すごい嬉しくなった。
今本当に、良い人で周り固めているなって思う。
希望ってさ、今度は本当みたいな顔で近づいてくるんだよ(笑)!でも今回は、本当に希望なんじゃないかって思える。もっと大きいところいけるって思えた。」

「今年はもう黙ることをやめようと思ってる。今までずっと、黙っていることが正しいって思ってた。小学生の時いじめにあった時も、黙っていたら良いやって思ってた。
でもそれって、周りの人は守れないって思った。自分のために寝ずに準備してくれる人や、信じてくれる人がいるんだよ。だから、闘いたい。」

「俺はもっと大きいところ行くけど、いてもいなくても良いなんてこと絶対ない。
そっち側にいると、1人いなくても良いかな、声出さなくても良いかなって思っちゃうけど、ステージに立つと強く思う。声出さなくたって笑顔で聞いてくれるだけで良い。違うね、ライブに来てくれるだけでいいんだよ」

このMCを聞いた時に、今日のライブは、
歌詞太郎さん自身の「決意表明」なんじゃないかと思った。
副題の『光あれ』の意味はきっと、今回こそは希望であってほしいという歌詞太郎さんの強い思いであったが、それだけでなく、等身大を見せ、これからもついてきてほしいとこちらに伝えるためのステージだったと感じた。

その後アンコールで、
新しくタイアップが決まった『ヰタ・フィロソフィカ』を初披露。
それに応えるように、客席からは自然と手拍子が起きた。

そして全体を締め括る最後の曲は、『パラボラ〜ガリレオの夢〜』。

ミラーボールが周り、ライブハウス全体を明るく照らした。

ライブが終わることを惜しむ最後の曲ではなく、ここから始まる未来を期待したくなるのがこの曲。

「人が多くて全員と目が合わせられない!合わなかった人怒らないで!」と、曲中に笑いながら歌詞太郎さんがら言った。

この曲ではいつも歌詞太郎さんは、一人一人と目を合わせて歌う。
それが、会場の大きさで叶わないことは、むしろ嬉しい。

しかし諦めきれなかった歌詞太郎さんは、ステージ前のカメラに顔を寄せた。

「ステージに映って…ない!?これ映せますか?」

そんな無茶振りにカメラマンさんが答えてくださり、少しして歌詞太郎さんの顔が大きくスクリーンに映し出された。

歌詞太郎さんはカメラをじっと見つめた。
これで全員と目があった、ということなのだろう。

そんな無茶苦茶な行動でありながらも、一人一人に気持ちを伝えたいと思う歌詞太郎さんは、心からのgiverだ。

本来ならこちらから感謝を伝えたいのに、何倍も上回って、行動や歌で感謝を届けてくれたのが、私の好きな伊東歌詞太郎というアーティストだ。
そんな歌詞太郎さんだからこそ、やっと大きな希望が見えたのだと思う。

今日この場所に来るまでに、私たちでも気づかなかったような沢山の困難が、歌詞太郎さんを待ち受けていたのかもしれない。
足を止めたくなることもあったのかもしれない。

もしこの先に、それがあったとしても、
私はずっと、歌詞太郎さんの前にいる大勢の一人でありたい。
希望を手にするまで、その先までも、ずっと皆で、歌詞太郎さんの音楽のど真ん中にいたい。

そんな決意を、私自身強く固める日であった。
だからこそこうして、書き留めて残しておきたいと思う。

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