北浦 亜以《【アイ】という存在》
私はただ、欲しかっただけ
アナタからの愛が…
私があげた分だけ
返して欲しかっただけ...
《 【アイ】という存在 》
一番初めに愛したのはお姉ちゃんだった
誰よりも大好きで、誰よりも大切で
誰よりも愛していた存在...
優しい声も、綺麗な笑顔も、暖かな手も
あの日、あの時、消えてしまった...
気付けなかった、護れなかった
だから二度と同じ過ちは繰り返させない
その為に護れるように力を付けたんだ
『亜以ちゃんは、正義の味方で居てね』
あの頃よりも陰のあるその笑顔で
私のことを映さないその冥い瞳で
お姉ちゃんの紡いだあの言葉が
私の心に滲みて、染みて、沁み込んで...
絡めて、捕らえて、離れない...
「お姉ちゃん、明日の予定だけどさ…」
「ゴメンね亜以ちゃん、明日は菫に呼ばれてるの!」
久しぶりに買い物に行くはずだったのに...
悪びれもせずに目を輝かせながら断られるのはこれで何度目だろうか
貴女の世界に、私はもう居ない...
貴女の瞳に、私はもう映らない...
あぁ、貴女にはもう【アイ】は存在しないのだ
二度目に愛したのは彼だった
傷だらけの私にそっと寄り添ってくれた彼も、同じように傷だらけだったのだろう
同病相憐れむ、と言われればそれまでだけど...それでも私の心の傷を優しく包み込んでくれたのは紛れもない事実だった
大事にされている、とは感じている
刑事と記者という互いの職業ゆえに全てを曝け出すことは出来ないけれど、それでも彼は大事にしてくれている
けれど彼の優しいその瞳も、私を見てはいない
映っているのに見られていない...
「...亜以、どうかしたか?」
「...ん?別にどうもしないけど?」
「......そうか、ならいい...」
一緒に過ごして、一緒に寝て...
幾度身体を重ねたとしても
彼は私を愛していない...
彼の中にもきっと【アイ】は無い...
私は【 亜以 】なのに
私が愛した人の中に、私に対する愛は無い
愛した人の中には【アイ】(亜以)が足りない
彼が、彼女が【アイ】(愛)を向けているのは
この世界でただ一人なのだから...
「......愛されてないなぁって...」
優しい声で『話してごらん』と言われ
零れ落ちたのは【アイ】の渇望
私を愛して欲しい、私自身を見て欲しい
愛した分だけ愛されたい、ただそれだけ…
私はただ、アナタの【アイ】でありたい
ただそれだけなのに…
~終~
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