仮面ライダーから人生を学ぶフィリピン人女子との話

フィリピンに留学中、友人との飲み会で現地人の年下の女性Sさんと知り合った。初対面のSさんは仮面ライダーオタクで、すべての仮面ライダーの名前が言え、仮面ライダーから人生の指針を学んだと豪語した。そんなSさんを好奇の目で眺めていら、Sさんは私に何かを感じたのか、すっかり気に入られてしまった。

Sさんは私といると安心できるから一緒にいたいと言い、当時孤高の独身として恋愛から距離を取っていた私は「恋人にはなれないが良き友人にはなれる」と答えた。Sさんも恋愛に興味はないと言い、私も語学勉強のモチベーションになると思って、Sさんと友情を築いてみることになった。

私はフィリピン人の人となりを学ぶべく、Sさんと積極的に話した。Sさんは内弁慶な人で、繊細な自分を守るために気の強いキャラを演じていた。自分への愛情を確認するために、人のことをからかった。たとえからかった結果嫌われたとしても、突然嫌われるよりもダメージが少ないという心理なのだろう。そんなSさんには当然友人が少なかった。私は、Sさんの振る舞いもジョークの勉強になると思い、うざく感じながらもSさんを受け入れた。

Sさんは、ときには口うるさい母のように、ときには駄々をこねる妹のように、自由奔放に振る舞った。私は自分の要望を言うことが少ない人間だったが、完全に相手のペースに飲まれてしまい不本意だったので、Sさんと「大人の友情」を築くためのいくつかの提案をした。Sさんは「けどフィリピンではこうだから」と答え、まるで恋人同士のような距離感で接してきた。喧嘩やすれ違いを繰り返したある日、私はこの関係が限界に来ていることを悟り、これ以上はお互いにとって不幸なので、友人関係を終わらせた。

人を嫌うことは気持ちの良いことではない。私がもし「断れない人」でなかったら、また別の結末があったのかもしれない。何かあったときに、「それは嫌だ」とはっきり言っていたら、お互いストレートにぶつかりながら理解しあい、今もうまくやっていけたのかもしれない。それとも、「それは嫌だ」とはっきり言ったら親密になることもなく、仮面ライダー好きの変な知り合いで終わっていたのかもしれない。なんともすっきりしない結末であるが、Sさんはこれからも仮面ライダーから学んだ指針を胸に強く生きていると思えば救われる。ありがとう、仮面ライダー、頑張れ、Sさん。