『タイムパラドクスゴーストライター』の佐々木哲平はなぜアナログ派なのか?
今回は1巻が発売されたことで『タイムパラドクスゴーストライター』(原作:市真ケンジ 作画:伊達垣大)について、また語ってみたい。
今回は特に考察といった話ではないのだが、ネタバレではないにしろ、核心に触れるような部分になるかもしれないとだけ先に明かしておく。
で、今回語りたいのは『タイムパラドクスゴーストライター』(以下、「タイパラ」)の主人公は佐々木哲平はなぜアナログ派、紙と鉛筆とインクで漫画を描くのかである。
■漫画家のほとんどはデジタル派の現在
今の時代、プロ、アマ問わず漫画家のほとんどデジタルを取り入れている。デジタルを使用してない方が珍しいぐらいである。
特にコロナ渦では漫画家であっても、密とならないリモート作業が求められる。そのためもあって、特にデジタル環境への移行が重要になっていた。
実際、週刊少年ジャンプでもコロナ渦での作業遅延で休載となった話がある。
それにネットニュースでも話題となった『キン肉マン』もアシスタントによる集団作業、“3密”であることを考慮して休載となっていた。
まあ、舞台が2020年である「タイパラ」に対して、このコロナ渦を想定していないという点を抜きにしても、漫画家の描写が丁寧に書かれている中でデジタル環境が出てこないのはいささか違和感がある。
作中でも、デジタル環境に関してもわずかながら触れられている。
この理由に関してはステレオタイプの漫画家像を重視して、フィクションとして貴重であるアナログ派を採用いるのが答えだとは思う。
デジタル環境で漫画を描いているなど、今の漫画家事情を詳しくないと読者には逆に違和感となるだろうから。
ちなみに同じく週刊少年ジャンプで連載している『マッシュル-MASHLE-』(著者:甲本一)も1話を見る限り、かなりシンプルな絵であるため、アナログで描いている印象がある。
ただ、それでもアナログとデジタルの併用である事が分かる。技術的な話であるため、断言はできないが、1話目でもピントずれを意識した演出からぼかしている場面がある。多用もしている点からもデジタル処理で間違いないと思う。逆に手書きだったら、それはそれで天才だが…
また、木目や地面などを見てもブラシ等を利用している。
2巻目からはあらゆる面でデジタルを多用しているのが断言できるレベルとなっている。それは速度面だけでなく、クオリティ面でも強化されているのが見て取れる。
「タイパラ」作中でも語られているように、週刊連載では描くスピードも重要となってくる。それが可能としてくれるのがデジタル環境である。
そして、シンプルな絵であっても、新人であってもデジタルを併用して描かれているのが現状である。
■それでもアナログにこだわる理由は
ただ、ステレオタイプの漫画家像とはいったが、作中を読み解いていくと、なぜアナログにこだわるのか、別の側面で見る事ができる。
主人公は漫画の専門学校を出ているから、まったくデジタル環境に対して知識や経験が無いとは考えにくい。
確かに、PCには初期投資が必要だ。だが、今の時代タブレットだけでも漫画を描ける時代である。決して、高額である必要性も無い。
むしろ、原稿用の紙とインク、そして、今では貴重となったスクリーントーンなど下手をしたらアナログの方が描き続けると高価になりかねない。
ただ、「タイパラ」冒頭は漫画を描くことはせず、ネームしか書いてないのでその心配はある種、ないかもしれないが…
ヒロインであるの藍野伊月もアナログ派である。彼女は年齢的、経験的にデジタル環境を理解していないから、必然的にアナログから始めているだけという理解は示せる。
ただ、1話目ラストで彼女がそれまで使ったと思われる大量の書き潰た鉛筆と、紙一杯に書き込まれた紙の山が出てくる。これが彼女の熱意という狂気じみたモノを感じさせる演出である。
一方で主人公とその点を比較するとミニマリストと思うぐらい、部屋自体にも何もない。1話でゴミ袋を出し忘れているが、それでも一袋。
おそらく、このゴミ袋の中には描き損じ漫画のネームなどの紙くずが詰まっていると思われる。それでもゴミ袋一つに収まる程度で強烈な印象はない。
つまり、この決定的な差を演出したいために、アナログにさせた可能性もある。
画力という数字化できない部分を絵に見せる際、これだけすごいと証明するのに分かりやすい例えである。デジタル環境ではこの差を描くことは難しい。
主人公の精神的中身の無さは前回の記事でも語っていたが、画力、技術面の無さも部屋の比較からも示されていたことになる。
■デジタルは作業が楽である反面…
そもそも、なぜデジタルで描かないのかと考えると答えはすぐに出てくる。
トレース等の作業が楽であること。盗作を題材にしている以上、デジタルはこの点でも圧倒的に有利である。結果、エグいことになる。
ただ、これはアナログでもできる事で、作中でもコピーした原稿からやろうとしている。
それでもデジタルに比べると拡大縮小、左右反転、角度を変えることがボタン一つでできる以上、断然便利である。
後、デジタルでは盗作といった概念が曖昧になる懸念もあるかも知れない。デジタルでは背景も素材からそのまま使われることがある。これは漫画用に背景素材として売られたりするので合法だし、写真を使って漫画に取り込む手法は古くからある。
ここらも漫画家事情というか漫画家のコンプライアンス、技法をきっちりと描かないと読者に誤解を生む結果となる。
実際、トレース自体も違法ではない。写真取り込みも基本問題はない。ただ、他者の著作物をトレース、取り込みして、自身の作品することが違法なだけで。
だからこそ、一般化した考えからもステレオタイプであるアナログ派で書く漫画家の必要があったのかもしれない。また良心的な問題でもデジタルと比べアナログの方がより罪悪感を演出させやすいともいえる。
アナログで描くことは今となっては、フィクションではある。ただ、そのフィクションに頼らなくてはならないことは時として出てくるのが創作と言える。
ただし、これは嘘ではなく分かりやすさを優先した形である。
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