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お別れのあとのとんでもないない再会

母も叔母も従姉妹も、みーんな帰って寂しさ120%のウィーン生活。9月になるともう寒いし、頑張って勉強したドイツ語もまだまだままならないし、まじつまらん!と。

そんなウィーンの家に1本の電話がなった。
ヒックヒックとしゃくるその声は同郷の友達。
「うそやろーーーどーしたん?」とわたし。
彼女は大学を卒業してからボストンに行っていた。
「すぐに遊びに来て〜寂しくて死にそうや〜」

んなアホな。

寂しくて死ぬのはウサギくらいのもので
絶対大丈夫。ただ心配なのは彼女は父親(カズオ)との犬猿の仲を断ち切るが如くボストンに行ったことだけ。
高校のときからよく喧嘩をしては学校から帰り着いた駅で我が家に電話をして来る。父と私が迎えると「家には帰らん!」と必ずいう。我が家で夕飯を食べ、その間我が両親は彼女の愚痴を聞き、そしてなだめて送り届ける。

異国で寂しい時くらいカズオに電話せーや。

バカ高いんちゃう?電話代。
そんなことは気にしない。大きな建築屋さんを営むかずおが払ってくれてるんだもの。
今すぐ来て〜!

仕方ない、そんなに泣くなら行くわ。
フットワークの軽さにだけは自信のあるわたしは航空券をみにいった。

電話代どころの騒ぎじゃないくらい高い。

いっっっっちばん安い経由便がみつかった。
ウィーンは小さな街だから、そんなアメリカさんなんぞには飛行機は飛んでおらん。少なくとも当時は。

フランクフルト乗り換えのスムーズなやつ
シャルル・ド・ゴール乗り換えのおしゃれなやつ
成田乗り換えの安心なやつ
ベルリン乗り換えのバカ高いやつ

そして見つけた所要時間26時間の
ミラノ乗り換え、ミラノで10時間待ち。
はぁ、これしかない。

「ほな行くわ」と言った時の彼女のうれしそうな声は、わたしを毛嫌いする「ミラノに10時間」の刑に陥れた。
まぁでもな、会ったら120%楽しいとわかってるし。

そして迎えた当日。
クルクルっと丸めたら筆箱より小さくなるようなTシャツを何枚かと使い物になるか分からないようなEUの携帯。
お気に入りの赤いバッグとモーツァルトチョコを持ってミラノに戦いを挑みに、いやボストンに出かけた。

イタリア人なんて大嫌い、のーてんき!
目も合わすもんか、ドリアばっかり食いやがって。
と思いながら何も知らないわたしはミラノに到着。

ええとこやん!

第一印象。道はみんな譲ってくれるし、荷物は持ってくれるし、乗り換えのパスポートのとこの人は笑顔。なんか言っているけどわからない。笑顔は万国共通よね〜なんてうかれながら残る8時間50分をどう過ごすか。
コーヒー飲むお金持ってないし、と思ってもコーヒーもバカ安い。おまけにおいしい。
なんていいとこなんだ、目的地がここならよかった。
それから空港のソファーで寝たらあっという間に7時間50分くらいが過ぎていて。若さゆえ眠れたのか怖いもの知らずで眠れたのか無事にボストン行きに乗る。

そして到着、2度目のボストン。こんなタイミングで。
久しぶり!マサチューセッツ。
空港で迎えてくれた彼女は、あの日の電話口とは想像も出来ないくらい明るい声で「やったぁ〜キタァ〜」
「来い言うたやん」とバカ笑いしながらあれやこれやと話も尽きず、毎晩遊び歩いた。

超高級アルマーニで食事もした (Tシャツで)
まだ日本になかったFriday'sはお気に入りになった。
オニオンリングを毎日食べた。
Six flagsとかいう遊園地にもいった。
日帰りでたのしくてたまらない遠足だった。
早起きして行き先も着くまで知らなくて、そして絶叫コースターにのりまくる遠足。
たしかあと島にも行ったんだ。そこまでのクルージングも特等席で楽しんだ。

カズオのカードで。

彼女のかずおへの精一杯の仕返し笑。加担したわたし。
ただ、そんなことではカズオはめげない事を知っている。むしろ最愛の娘が自分のカードを使ってくれたと両手をあげて悦ぶだろう。目に浮かぶ。

彼女は成人式には数百万の着物を買ってもらった。
でも着なかった。カズオが選んで勝手に買ったから。

なんてしょーもない痴話喧嘩だ。

カズオはひたすら娘を愛し、娘はひたすら嫌だった。
私なんてさ、前日に東京でピアノの発表会があって、成人式は当日にしか帰れずに着付けの時間もなくピアノの発表会で着たドレスで成人式だったのに。
あとから撮った写真の着物は秋子が選んだ青で、わたしは気に入ったけど、秋子は「これじゃお見合い写真にもならん」という代物だったのに。

そんなこともあったなぁ、と毎夜語り明かしてウィーンに帰る日。楽しい時間をくれた彼女とカズオにありがとう。
ふたりは大泣きした。
お互い異国で頑張ろうと誓った。
吐きそうになるくらい楽しい毎日だった!
空港で別れるときはまた「寂しくて死ぬ〜」と今度は二人ともが言っていた。
もう笑える。

それから数年後、彼女はボストンで、どこで見つけたのか岩手県の人と結婚した。ボストンで行われた結婚式のビデオを見せてもらったら彼女は数百万の着物を着てカズオとチークダンスを踊っていた。

あり得ないけど美しいとはまさに、爆笑。

カズオの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「この手を離すもんか」とチークダンスで握りしめる娘の手をどれほど愛おしいとおもったことか。

たのしさはじける遊園地はまた行きたい!

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