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1000本ノック


「短歌1000本ノックです!」

ここは飛騨の山奥、過疎化の進む人里離れた村。人口は今年とうとう50人をきった。高齢化が進み、最高齢は101歳。最も若い者でも39歳だ。それでもボケている者はひとりもいない。なぜならここは、短歌の村。村人全員が短歌を詠む。そして今年も皆が57577のくくりで会話し、生活し、コミュニケーションをとる日がやってきた。野球好きの村長が名付けた、その名も「短歌1000本ノック」村人全員で短歌1000首読むまで終わらないのだ。

「短歌1000本ノック 開始です!」

役場のスピーカーから、声高らかに宣言したのは、この村の村長。
早速
「この時期が とうとうやってきましたよ
 1000本揃えて お山に奉納」

「この村の 過疎化を止めるすべはなし
 鍛えよ 鍛えよ 脳を鍛えよ」

「さあバンバン ルールなんかは気にせずに
 心のドアを パカンと開いて」

相変わらず、そのまんまだな。今年も来たかこの日が。1000に達するまで、単純にひとり20首。村最年少の俺は思った。やるしかねぇ…
各家庭付きのマイクで、各々が叫ぶ

「懐かしや〜 丘の桜は 御所染めの
   娘子の小袖 ひらひら舞ふ」

おっ、101歳のばあさん、まだ元気そうだな

「右肩の 使用超過多 ミシミシと
 幻魔カタコリー オノレホロビヨ!」

「あぁ無念!袈裟懸けに発つ この痛み
 古侍に 一太刀あぶる」

肩こりのひどいやつ誰?

「あぁうまい! ビールを一気に飲み干せば
   とれた差し歯の ことも忘れる」

昼間からじいさん、また呑んでるのか

「5センチの 厚みの襖に挟まれて
 元気でいますか? 我の息子よ」

ついにきたか…

「我が存在 今こそ示す時なれど
 示すものなど 何も何もない」

「たんぽぽの 綿毛をふうと吹きたいな
 四十路の君の 左に座って」

「幼少より 天真爛漫という呪縛
 もういい加減 許してほしい」

「稲光 過去の後悔 無様な今日
 未来の不安 見上げる雨空」

「三日目の カレーを温めなおす夜
 遺言状でも 書いておこうか」

「ダイソンの 掃除機が今日 Amazonから
 オトンとオカンに届きます」

短歌1000本ノック。この日は、誰もが素直になれる日。



              御所染め

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