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『Black Reverie』と『純白トロイメライ』について

はじめに

2020年11月4日、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』からGR@DATE WING 03 (以下GW03) が発売された。歌唱は宇宙一のクール系アイドルユニットであるところのアンティーカである。本記事では、GW03に収録された新曲2曲『Black Reverie』と『純白トロイメライ』との対照比較を行い、主に歌詞について考察を行うものである。

私は「好き」だと感じた箇所の言語化を行うことは大事なことだと考えており、できる限り文字という形で残しておきたく、筆を取った。もちろん、言葉にできないほどの感情も、人間らしさに溢れていて興味深い。言葉にしてしまうと、その時点でその感情が極限されてしまう恐れもある。それでも敢えて書き残しておきたい。移ろいやすい感情を言葉という形で少しでも残しておくことには価値があると感じる。

アンティーカの曲で私が一番好きなのは『NEO THEORY FANTASY』である。この曲も歌詞が素晴らしいのだ。感謝祭のコミュを思い浮かべて聴くと、この上ない感情に包まれる。リアル感謝祭の演出然り。歌詞の言葉選びもすごく好みである。これは個人的感想だが。また、ミリオンやSideMの曲なども聴いて思ったが、私は真崎エリカさんの書く歌詞に弱い (松井洋平さんの歌詞にも勝てない)。歌詞がいいな、と思ったものが真崎エリカさん作詞だった、という場合が多いのである。例えば、私はミリオンでは望月杏奈ちゃんが担当である。言いたいことはたくさんあるのにうまく表現できないという葛藤、ゲームのアバターやアイドルとしてのONモードの自分ならそれを表現できる喜びと楽しさ、けれども内面に秘めた”本当の”自分も知ってほしいという思い等々を上手く調和させて歌詞に乗せてくれた『VIVID イマジネーション』と『ENTER→PLEASURE』は真崎エリカさん作詞である。本当に大好きな曲の一つである。いきなり他事務所のアイドルの話をして申し訳ありません。ともかく、そんな真崎エリカさんの書く歌詞という意味でも、注目したいという私的な理由があるということだ。

なお、もはや言うまでもないかもしれないが、こういった種類の記事の例に漏れず、筆者の主観が大部分を占めるため、そういうものとして読んでいただきたい。また、思ったとおりに書くので、(すでに片鱗が見えたように)脱線がちょくちょく起こるかもしれないが、ご容赦願いたい。前置きが長くなってしまったが、以下より本題に入っていきたい。

タイトルについて

歌詞を見る前にタイトルについて見ておきたい。深読みしすぎるかもしれないが、一解釈としてご了承願いたい。なお、私がヨーロッパの言語が好きなため、話が長くなってしまっている。

さて、『Black Reverie』と『純白トロイメライ』について、2つのタイトルを見比べたときに真っ先に気づくのは「黒 VS. 白」の対立であろう。

では、残りの部分はどうか。まず"reverie"は英語の語だ。Oxford English Dictionary (2nd Edition revised) で調べてみると、"a state of being pleasantly lost in one's thoughts; a daydream" とある。『ジーニアス英和大辞典』では「夢想」などとある。音楽では、"an instrumental piece suggesting a dreamy or musing state" /「幻想曲」ということになるらしい。最後に、"《archaic》 a fanciful or impractical idea or theory"というのもある。便宜上、基本的には最初に挙げた意味で取ることにしておく。

なお、この語は古フランス語由来らしい。元となったフランス語の単語はrevelry「お祭り騒ぎ、歓楽」とか、raving「たわごと」とか、delirium「有頂天」とかの意味で、中英語でもfrolic「ふざけ、戯れ」の意味があったらしい。現代英語reverieや現代フランス語rêverie (現代英語とほぼ同義) よりさらにテンションが高い方向に振り切っていたのだろうか。もしかすると、ここまでの意味をも、当タイトルに読み込みうるだろうか。

以下に、オンラインで利用できる英語の語源辞典 (https://www.etymonline.com/) からの引用を掲載しておく。revelryは発音が似通っているけれど、どうやら別語源なようだ。

reverie (n.)
mid-14c., reuerye, "wild conduct, frolic," from Old French reverie, resverie "revelry, raving, delirium" (Modern French rêverie), from resver "to dream, wander, rave" (12c., Modern French rêver), of uncertain origin (also the root of rave). Meaning "daydream" is first attested 1650s, a reborrowing from French. As a type of musical composition, it is attested from 1880. Related: Reverist.
(cited from: https://www.etymonline.com/word/reverie#etymonline_v_12983)

一方、「トロイメライ」については八宮めぐるの素晴らしいコミュが収められたpSRカード【小さな夜のトロイメライ】があったり、シューマンの作曲した「子供の情景」のうちの一曲に「トロイメライ」というのがあったりするため、比較的よく聞かれる語彙ではないだろうか。本筋からずれるが、めぐるのこのカードには「子供の情景」という言葉まで読み込んであげることでコミュがよくわかるようになるわけで、さすがの文学性である (褒め方が雑)。

さて、この語彙はドイツ語である。«Träumerei»と書く (ドイツ語では名詞の頭文字は大文字)。意味は「夢想、空想」である (アクセス独和辞典 第3版を参照)。すなわち、"reverie"とほぼ同じ意味である。一応Dudenのオンライン辞書でも引いておこう。«etwas, was sich jemand erträumt; Wunsch-, Fantasievorstellung» (誰かが夢想するもの; 願望的思考や空想) である。

ついでに、もしかすると大事かもしれないので一応書いておくが、あくまで「夢想」であって「夢」ではない。以下に示すように、「夢」を表す語は別にある。後者が前者の派生語であることは一目瞭然であろう。なお、フランス語の-ieが中世くらいにドイツ語に入って-eiとなったようで、これらの接尾辞は同源らしい。集合名詞を作る役割を持つ。

フランス語 rêve「夢」― rêverie「夢想」
ドイツ語 Traum「夢」― Träumerei「夢想」

正直、「夢」と「夢想」がどのように違うかというとイマイチ直感的には分かりにくいのだが、「夢想」のほうが長く続いている感じはする。「夢」の「集合名詞」というならこれであながち間違いではないかもしれない。そして私のこの感覚が正しいのなら、「夢」でなく「夢想」にしたのは妥当なのであろう。

長々と書いてきたが、結局両者の意味は似通っていて、タイトルとして見比べた時には「黒い夢想」と「白い夢想」ということになる。両者が対照的に書かれたのは明らかである。ただ、"reverie"の意味は"a state of being pleasantly lost in one's thoughts; a daydream"であり、"pleasantly"というのが鍵を握るかもしれない。1曲目は心地良い夢想を表しているのだろう。詳しくは歌詞のところで見るが、2曲目は「カタストロフィ」など、ネガティブなイメージを与える言葉もちょくちょく見られる。こちらの「夢想」は少しネガティブなイメージをも含むのかもしれない。この対比を意識しつつ、歌詞の方を見ていきたい。

歌詞 -Black Reverie-

解釈には色々な方向性があるだろうが、シャニマスの曲の歌詞なのでここからはきちんとアイドルに寄り添っていく方向で進めていきたい。

重要そうな箇所を取り上げてみていきたい。以下、日本語の語彙の意味は小学館の『デジタル大辞泉』から引いている。

まず全体的に、「黒」がタイトルに入っているだけあって、時間帯は「夜」であろう。"Night" やら「月虹」やらの言葉からも推測される。(ある意味) 暗い現実から"reverie"の世界へ、これは普通の少女からアイドルになったことを指していると考えた。以下詳細に見ていくこととする。

(1) 明けない静寂にひそんだロマネスク
(2) 眠りの庭園で目覚めるファンタズム
(3) 始まってしまいそう 終わりのない So Dizzy Night

(1) について、「ロマネスク」とは、「小説のように、数奇であったり情熱的であったりするさま。」である。これまで「静寂」に包まれていた彼女たちの世界には、小説のような情熱が隠れていたのである。恋鐘のパートであるため、恋鐘自身のこととして取ることも可能であろう。アイドルになりたくて色々な事務所を受けてきたがとことんダメ (=明けない静寂) で、それでも諦めずに受けにきた283プロダクションで合格をもらった。ここに「ロマネスク」があった。

(2) について、「ファンタズム」 (phantasm) とは「幻影」とか「幻覚」とかの意味である。「幻覚」と「目覚める」という言葉が繋げられているのがまた面白い。「幻覚」そのものが目覚め、彼女たちと出会ったのだということであろうか。「アイドル」という「ファンタズム」に足を踏み込んでいき、それが (3) 「始まってしまいそう」なのである。これから長い道のりになりそうだということも予感されているようだ。

(4) 振り向いた影が 手向ける未来は悲劇? それとも…

(4) について、「振り向いた影」とはシャニPのことを指すと考えてしまっても問題ないだろう。アイドルという世界に彼女たちを引き込むきっかけとなった男である。その男が「手向ける未来」に対して、不安と期待が入り混じった感情を示していることが伺える。

(5) 月虹と革る世界 現とユメのChaos
(6) 今合った貴方の瞳 幻想のひとかけら
(7) 宵闇のBlack Reverie ... I'm a Dark Angel

(5) について、「月虹」とは「月の光によって生じる虹。光が弱いので白く見える。」ということである。「革る」は「革命」とかの「革」だろう。「虹」といえばシャニマスと関わりの深いワードであるが、これを「月虹」とすれば夜間でも見えるものということになる。昼でも夜でも、虹は見えるのである。夜であるということは、本曲全体のテーマ並びにアンティーカというユニットの特性を反映していると考えられるが、そこいシャニマス全体のテーマを加えるべく「月虹」という言葉を用いたのだろうか。すごい。なお、私は「月虹」という言葉をこの曲を聴くまで知らなかった。
「ユメ」がカタカナなのはアンティーカの曲特有のやつだと思われる。すなわち、この「ユメ」というところは「アンティーカの世界」を表すと言えると考えられる。普通の少女であったときの「現」と、アイドル・アンティーカのメンバーになったときの「ユメ」との狭間にいるということであろう。

(6) について、「貴方」はシャニPと見ておく。Pに見いだされたこと。これがアイドルという「幻想」の「ひとかけら」、つまりきっかけであった。

(7) について、アイドルであるときの自分が"Black Reverie"の中にいて、そこにいる自分は"a Dark Angel"なのであると解釈できる。

ここまでで、アイドルの道 (=Black Reverie) に足を踏み入れた彼女たち自身が、「黒」に染まっているものであると表現されていることがわかる。

次は2番について見ていこう。

(8) 無邪気な散策は 一瞬でマスカレード
(9) 不思議なミラージュに 飲み込まれたようで 咲いてる花さえも 目に入らない

(8) について、「マスカレード」とは「仮面舞踏会」のことである。摩美々のパートであることから、夜遅い時間に一人で街をぶらついていたところをシャニPが見つけるというWING冒頭のコミュと「無邪気な散策」という歌詞が結びつくと考えられようか。

(9) について、「ミラージュ」は「蜃気楼。また、幻覚。」である。1番の「ファンタズム」と近い意味であり、またこれも紛れもなく"reverie"の縁語である。霧子パートであるが、好きな「花さえも目に入らない」ほどに「ユメ」に魅入られたということであろう。

少し個人寄りの解釈となってしまったが、方向性は変わらない。

(10) 闇ノ波間ニ 漂ウ二人

(10) について、「二人」はここでは「シャニPとそれぞれのアイドル」の「二人」と見る。二人で「闇ノ波間ニ」にいて、まだ先の見えない不安という意味での「黒」、すなわち"Black Reverie"の中をPと共に方向もわからない状態で進んでいると読むことができる。

(11) 手を伸ばしたら 分かってる でも深みへと進むの...

(11) について、(4) と同様に彼女たちの葛藤が垣間見える。しかし、ここまできて引き返すことはできないのである。

(12) 錯覚を起こす目眩 迷って掴む Helios
(13) 出会いのセレナーデ
(14) 貴方がくれた Garnet
(15) 堕ちていく... ためらいをそっと踏み越えたこの日から

2番の歌詞は言いたいところがいっぱいある。

(12) について、"Helios"とはギリシア語で「太陽」である。どうするか迷ったまま「錯覚を起こ」し、「迷って掴」んだのが太陽だった。いや、掴んだものが太陽となったという方が適切だろうか。アイドルという存在、もしくはそこに入るきっかけとなったシャニPのことを指すと見られる。

(13) について、「セレナーデ」は「夕べに、恋人の窓下で歌い奏でられる音楽。」である。運命の出会いということを詩的に表現している。

(14) について、"Garnet"も絶対意味が込められているのだろうけれど、石には全く詳しくなくわかりかねる。ただ、宝石屋さんのサイトを見ると以下のような記述がある。

ガーネットは別名「勝利の石」。忍耐力と精神力を養い、困難や障害に負けず、前向きに乗り越えられるよう力を貸してくれます。これまでの努力を実らせて、勝利へと導いてくれるでしょう。
(中略)
ガーネットに惹かれる人は、もっと強くありたいという願いを秘めているようです。「赤」は情熱や生命力を燃え立たせてくれる色。自分自身を奮い立たせて、本来持っている能力や実力を存分に発揮し、目的を達成したり、新しい事にチャレンジしたいと思っているのではないでしょうか?ガーネットを身につけると、自己表現やアピールが上手にできるといわれています。その結果、周囲の人間からの信頼や友情、愛情を得て、成功を勝ち取ることができるでしょう。
(cited from: http://natural-style.biz/powerstone/garnet.html)

なるほど、ここで書かれていることが正しいのだとすると、これは確かに彼女たちにも当てはまりそうである。Pが闇夜を乗り越えるための力をくれた。これを"Garnet"と表現しているという解釈は一つ可能だろう。

(15) であるが、(4), (11) で示されたような葛藤を「踏み越えた」ときのことが記されている。ここで、アイドルの道を歩むことを決めたと言える。

(16) 真っ白な翼が真っ逆さまに飛ぶ
     真っ黒に染まって その瞳の色になって

(16) について、この箇所は比喩がふんだんに使われている。「真っ白」は普通の少女としての彼女たち、「真っ黒」はアイドルとしての彼女たちと見られる。「真っ逆さまに飛ぶ」というのは、1サビ2サビともに含まれる「堕ちていく」というのとつながる。「その瞳の色になって」というのは、そのままの意味ではなさそうだ。アンティーカの5人の目の色は必ずしも黒ではない。そうではなく、「彼女たちの瞳に映る世界通りの色」ということであろう。ここまで見てきたとおり、アイドルとしての彼女たちは「黒」という色によって象徴されるが、同様に「アイドルとしての」彼女たちが見る世界も「黒」によって象徴されると考えられる。すなわち、彼女たち自身と彼女たちの見る世界は、アイドルとして見ると「黒」であり、それによって「瞳の色=翼の色」という意味になっているということである。

(17) 昨日にはもう... 戻れない私

ここは文字通りであろう。アイドルとしてやっていく決意をした彼女たちの心情を示している。それは、なし崩し的にアイドルになってしまい、今更やめられないという消極的な感じなのか、アイドルとして大成するぞという積極的な感じなのかはアイドルによるかもしれない。

余談だが、Aメロで三峰結華のソロパートがないのは今気づいた。

まとめると、シャニPや「アイドル」という概念との出会いによって、いつもの自分 (=白) から「アイドル」の自分 (=黒) に、葛藤をしつつもなし崩し的に変わっていくことが記されていると言えるのではないだろうか。

歌詞 -純白トロイメライ-

思った以上に長く書きすぎている。本節はもう少し簡潔に畳みたいが、長くもなりそうである。よければお付き合い願いたい。まとめを見れば結論はわかるので、全部読まなくても大丈夫だと思う。

さて、前節と同様にして進めていこう。まず全体的に、「白」がメインテーマなわけである。すなわち、「普段の彼女たち」ないしは「素顔の彼女たち」がメインとなっている。他方、この曲はラブソングでもある。

(18) 堂々巡り 信じれば 欺かれる
       人間心理 諦めと踊ってる みんな同じでしょ?
(19) ねぇどうか繕わないでいて 隠した嘘のナイフ
  突き立てるの待ってるなら 翳しなさい きっと時は今

ほぼ全部。(18) について、他者に対する不信感と諦めが描かれている。(19) は他者に不信感をもっている中でも、自分が気になる相手がいて、その人には繕ってほしくないという意味合いに読める。

(20) 「選んでよ」/「雨のように」/「花のように」/「悪い子に」/「寂しさも」
(21) 恋するたび降るカタストロフィ でも貴方はいつも優しくて...
(22) 純白に還ってくトロイメライ 響くトロイメライ

(20) は言うまでもなく各アイドルによるパート分担が光っている。(21) は恋における葛藤を示していると見える。さて、これをアンティーカの彼女たちに当てはめるというのはまた難しい。私は全員をきちんとプロデュースできているわけでもない。だが、恋鐘や咲耶がシャニPにどうやら好意を寄せていること、三峰結華の【NOT≠EQUAL】のコミュなど、想起しうることは諸々ある。アイドルでない素顔の自分はPの嘘をついていない (というより仕事時の顔でない) 素顔に触れたいという気持ちを持っている。これは良くないことだが、相手のやさしさに触れて気持ちが救われるという読み方は可能かもしれない。なお、この記述には三峰結華の【NOT≠EQUAL】のコミュが割と念頭にあるので要注意。

(22) を見ると、「素顔の自分」だけでなく、あれこれ考えて暗くなっていた自分を浄化してくれるのだという素直な読み方も出来そうだ。ここを見ると、「トロイメライ」は悪い意味でもなさそうである。

(23) 一人ぼっち 庭園迷路 すぐまた彷徨うのなら
(24) 犠牲ともなう甘やかさ どうして与えるの
  期待がまた目覚めてしまう 止まらない終焉の始まり

(23) の「一人ぼっち」は、アイドルでない自分 (=白) はまた一人ぼっちになってしまうという含みがあるのかもしれない。

(24) はまた葛藤が示されている。優しくされるとその気になってしまうが、それは良くない。しかし、やっぱり期待してしまう。

(25) ユメ見ていた「寂しさを」溶かす眩い光に染められ
(26) 欲しかったWhite Lie

(25) では、またカタカナの「ユメ」が使われている。これは「黒」の状態である。「白」が「孤独」、「黒」は孤独から抜け出した状態という読みもできるかもしれない。

(26) の"White Lie"はいわゆる「優しい嘘」である。具体的に何を指すのかは定かでないけれど、"white"という言葉を使いながらも、「アイドルとP」という関係性、すなわち「黒」状態のときの (悪く言えば) 建前を言っているのだろうか?ここはもう少し考える必要がある。

(27) 反逆するセカイ 真っ黒な羽は 最後の想いごと 真っ白になれる
  竦んだ夜を超えて舞い上がるAngel
  ここから貴方を信じてもいい...?

(27) は (16) で示した ”Black Reverie” の箇所と比較する価値のある箇所である。うーん難しい。「アイドル対素顔」という対比だけでは読み解ききれない感じが十分してきているけれども、敢えてそれで突き進むとしよう。さて、「アイドル」が「黒」であるという分析において、「黒」というのはいい色であるとは (少なくとも我々日本人の感覚では) あまり見做されないように思う。しかし、「アイドル」というのが悪いものとして描かれているのかというとそうではないと思われる。"Black Reverie"で描かれた「アイドル」になるということは、ある意味でその色に「染められた」という事もできる。いわば受動的に「染められた」状態での「黒」から、アイドルをやるときにも「素顔」を出せるようになったという読み方もできるのではないだろうか。そうするとこれが「白」である。もしかすると、「アイドル」への迷いが「黒」として表現されているということかもしれない。「真っ白」になったということは、この迷いを振り切れたということかと思われる。

その状態が "Angel" であり、「ここから」ようやく「貴方を信じてもいい...?」と言えるようになったと読めるのではないだろうか。

「最後の想いごと」というのは何だろうか。ここでは「恋愛」との関わりにまだ言及できていなかったため、そちらの方向からの読み方も示しておかなければならない。「黒」すなわち「アイドル」の自分と、「白」すなわち「素顔」の自分との間でどちらを優先すればいいか、という葛藤があるように思われる。「恋愛」の心が芽生えていく中で、「アイドル」の自分ではいられないが、「素顔」の自分に戻ってしまうと元通りであるという葛藤である。「最後の想いごと真っ白になれる」とは、この想い (恋心) を昇華し、共に自らを「白」へ収束させることができたということであろうか。平たく言えば、「アイドルとP」という関係性をうまく受け入れられるようになったということであろう。...やっぱり三峰結華に寄ってしまっている。

(28) 「選んでよ」/「選んだら」/「選んだよ」

恋鐘による3つのセリフパートであるが、1つ目は相手に選択を委ねている。2つ目は、選んでしまったら良くないことになるというふうな葛藤の導入である。3つ目は (27) を経て選ぶことができたということを示している。何を選んだのか?私見では、「白」を選ぶことにしたと考えられる。ただ、単純ではない。上のブロックで見たように、「黒」を「最後の想いごと」昇華して「白」に統合するということになる。「選択」とは、Aを選ぶならBを捨てなければならないということになるが、本曲においては片方を優位に立たせつつ、もう片方も上手く取り入れることができていると考えることができるのではないだろうか。

整理とまとめ

さて、ここまで見てきたように、2曲においては彼女たちの変化が示されているわけである。それも、時間的なスパンからすると出会った初めから最近までということで、かなり長い幅である。『シャイノグラフィ』では「ねえ最初の色覚えている?」という歌詞があったが、「最初の色」というのが意識されているとも考えられるだろうか。上で見てきたのをまとめると以下のようになる。「A ⊃ B」は「AがBを含む」くらいの意味合いで使っていることを了承しておいてほしい。

白: いつもの彼女たち
 ↓ (16)
黒: アイドル ↔ 白: 素顔, 恋心
 ↓ (27), (28)
白: 素顔 ⊃ アイドル

彼女たちの人生は、シャニPと出会い、「アイドル」と出会い、大きく変わった。年頃の彼女たちであるから、自分に優しくしてくれる年上の男性に対して色々思うところがないわけがない。それに、自分たちの置かれている環境も以前とは全然違う。非常に大きな葛藤を経験したことだろう。しかし、それを乗り越えることでさらなる成長を見せた。【NOT≠EQUAL】、霧子のG.R.A.D.、『ストーリー・ストーリー』のコミュなどなど。いわば、この2曲はアンティーカらしい曲調や雰囲気に乗せて、アンティーカの歩んできた道を歌っている曲だと考える。

両者を単なる対比ではなく、時系列に乗せてあげることでも解釈可能であることを私見として示した。

終わりに

思った以上に分量が多くなってしまった。もし全部目を通してくださった方がいたなら、本当に感謝の気持ちに堪えない。冒頭で書いたように、真崎エリカさんの書く歌詞の言葉選びが好きで、2曲の中でも好きな歌詞を取り上げようとしたらかなり大部分を取り上げることになってしまったわけである。読みづらいところや冗長なところもあっただろうが、精進していきたい。矛盾があったら大変申し訳ない。アンティーカのコミュも今後もっと読み込ませていただきます。

書いてみて思うが、自分の思考を整理するときにアウトプットを行うことは大事である。形にすることで、先に進む思考もある。他の人の考察も見てみたいから、ぜひ皆さんにもシャニマス等の感想を書いてほしい。考察を書く人口が増えると嬉しい。

そして、少しでもシャニマスやその楽曲の良さに気づく人が増えてくれれば私としても嬉しいものである。ノクチルの感謝祭が追加され、GR@DATE WINGシリーズもそろそろ完結する。しかし、すかさず来年1月からはCOLORFUL FE@THERSシリーズが発売される。さらにアイドル各人の個性が掘り下げられることが期待される。本当に楽しみである。結局スプパやら2ndやらは開催されないままだが、いつかライブにも行ける日を心待ちにしている。

これからのシャニマスにも幸多からんことを。

tejas

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