華麗なる一族 ~パウル・メンデルスゾーン~

メンデルスゾーン...少しでもクラシック音楽に触れたことのある人なら、この名前を聞いたことがあるでしょう。普通、メンデルスゾーンと言えば、ほとんどの人が耳にしたことがある「結婚行進曲」や「ヴァイオリン協奏曲」などの作曲家として知られるフェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)のことを指します。ところが、化学の世界にもメンデルスゾーンという有名な化学者がいます。

彼の名はパウル・メンデルスゾーン(1841-1880)。フェリックスには5人の子どもがおり、パウルはフェリックスの次男として生まれました。メンデルスゾーンの一族は非常に多くの分野で活躍しており、フェリックスの祖父モーゼスは哲学者で、父親と弟は銀行家、妹の嫁ぎ先は偉大な数学者の一人であるペーター・ディリクレ、長男のカールは大学で歴史学の教授...とまさに「華麗なる一族」と言えましょう。

そんな一族の一人であるパウルは、ハイデルブルク大学で化学を学びました。同窓生には、あのブンゼンバーナーの発明者であるロベルト・ブンゼン(1811-1899)がいます。その後、有機化合物であるアニリンを使った染料(布を赤紫色に染めるフクシンなど)の開発に打ち込み、工業生産を行うべく、共同でAGFA(アグフア)という会社を立ち上げます。これにより、前述のフクシンや、アニリンブルー、クリスタルバイオレットなど、今日でも用いられるアニリン系染料が大量に生産されるようになったのです。

残念ながら、パウル自身は会社の成功を見届けることなく、39歳という若さで没しています。奇しくも、父のフェリックスと同じ年齢でした。その後、AGFAは、写真の現像液であるロジナールの開発を皮切りに、写真や映画のカラーフィルム製造で急成長した後、ナチス時代の合併とその後の独立、更にはバイエル社の子会社となった時代を経て、マイクロフィルムなどの高分子材料を製造する化学メーカーの1つとして、現在も存在しています。

参考文献:廣田襄「現代化学史」京都大学学術出版会
     日本アグフアマテリアルズ株式会社 (agfa.jp) ホームページ

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