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【昭和歌謡名曲集60】ハロー・グッバイ 柏原芳恵

異質なアイドルだった。例えば、「ハロー・グッバイ」のイントロの振り付けは、手を後ろで組んで、肩をかわるがわるぴょこぴょこ上げるというものだが、ここで既に違和感があった。そう、芳恵はアイドルにしては大柄なのだ。実際に大きいかどうかは知らないが、印象としては。そのでっかい芳恵がちっちゃい女の子の仕草を真似てるような。それ、ちっちゃい女の子がやってこそカワイイのだぞ。君には君に似合う振り付けがあるはずだ。そんなことを思いながら見ていた。小顔のアイドルたちの中で、顔も少々大きめだったかもしれない。
というわけで、気になるアイドルであったが、なんでも皇太子さまがファンだという。恐れ多くもコンサートにも足を運ばれ、お花を下賜されたとか。もったいないことである。誉である。
で、歌であるが、「春なのに」とか切ない少女心をよく歌った。中でも「ハロー・グッバイ」は心に残る。
女の子は紅茶の美味しい喫茶店でお茶を飲む。
カップがお皿から離れるのを「グッバイ、バイ」とか言っている。カップの中のお茶を飲むたび、「ハロー」の文字が行ったり来たりする。見えたり隠れたりする、ということだろうか。字がカップの内側に印刷されているのだろうか。
片思いの歌のようである。学校で「グッバイ(さよなら)」て別れて、次の日、「ハロー(おはよー)」て、会えて、でもそれだけで、それだけなんだけど、ドキドキ心乱れてしまう、みたいな歌詞か。違うか。
驚愕したのは、その次の歌詞である。女の子は思うのである。「生まれ変わったら、こんな可愛いカップになりたい」。びっくりした。生き物以外に生まれ変わりたい! 輪廻転生の理に反している。生まれ変わるなら、生き物から生き物だろう。百歩譲っても植物までだろう。紅茶カップに生まれ変わりたい!無機物に生まれ変わりたい!しかも、スプーンで、中身を、あなたに、グルグル回されたい。どんな、願望なんだ! それをかわるがわる肩をぴょこぴょこさせながら、大柄な(印象です)芳恵が歌う。さすが喜多條忠、とんでもない歌詞を書く。それをなんの疑問もなく歌い上げる芳恵。誠に名曲である。

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