海皇の歴史-ABYSS RISINGからRAGE OF THE ABYSSまで

 ypのttoです。遊戯王の主に水属性テーマの解説をあれこれしています。2024年7月、ついにRAGE OF THE ABYSSの発売が決定しました。これは2012年7月発売のABYSS RISINGのリメイクともいえるパックで【シャーク】【マーメイル】の新規登場はほぼ確定と思われます。
 さて、ABYSS RISINGにてマーメイルが登場し、同じころストラクチャーデッキにて海皇の咆哮が登場して以降、海皇はしぶとく環境で成績を残し続けました。その歴史を私見を交えて振り返りつつ、海皇とは何ぞや?ということを考えつつ、じゃあ新規はどうしたらよい?ということを考えていきたいと思います。

2012年-海皇の咆哮、ABYSS RISING発売

 ストラクチャーデッキに登場した海皇、そして上述のABYSS RISINGに登場したマーメイルはメガロワンキルを中心に考えられたデッキでした。

 デッキとしてはアビスフィア→リンデ→パイク→ジェネクスウンディーネ→メガロサーチ→アビスフィアと言うサーチのサイクルがあり、メガロからケートスやミズチなど攻撃力800アップの装備魔法をサーチでき、2回攻撃することにより(2400+800)×2=6400の攻撃力をギミックだけで出すことが出来、適当な下級が追加されればワンキルに届きました。
 上記のようなエンジンから安定してワンキルを可能にした一方でマクロコスモスやソウルドレインと言った明確な弱点もあり、一強環境とはなりませんでした。この2012年は海皇水鱗精、炎星、HERO、ヴェルズなどを中心に多彩なカテゴリーが群雄割拠した時期であり、遊戯王の良環境の一つとされています。

2013年-征竜誕生

 その良環境が崩れたのは2013年、征竜魔導環境の始まりです。1月に発売されたLORD OF THE TACHYON GALAXYとその周辺のパックで征竜が登場しました。征竜は展開力、安定性、除去性能やリソースの保持などあらゆる点で当時のデッキの中では抜きんでており、膨大なアドバンテージを生み出す《魔導書の神判》を安定して供給できる魔導の2強環境となり、征竜の特殊召喚を封じて、魔導相手には闇ウイルスを打てるヴェルズが一部存在する程度でした。
 水鱗精はムーランハンデスとランク7で制圧、魔封じで魔導を防ぐという形で成績を残した構築もありますが、如何せんアドバンテージ獲得能力で劣っており、環境からは一歩退く形となります。このころから「魔封じとけんかしないデッキ」「アドバンテージ能力は低いが先行制圧で何とかするデッキ」と言う昨今の海皇のイメージらしいデッキが生まれるようになります。
 3月は発売直後ということもあり、魔導征竜ともにほぼノータッチであり、9月までこの2強環境が続きました。
 7月になるとEXTRA PACKが発売され、ディニクアビスと深淵に潜むものが登場します。ディニクはデッキのエンジンとして、深淵に潜むものは打点上昇や龍騎隊起動、そして海皇メタとして現在まで活躍します。最初の一瞬だけは空気でかなり安く手に入れることが出来た記憶があります。
 9月になると制限改定はリミットレギュレーションと命名が変更され、年に4回実施することが発表されます。改定内容としては子征竜がすべて禁止、神判禁止と一斉に規制されました。これにより魔導は環境から退くこととなりますが、征竜はまだまだ健在でした。
 水鱗精は龍騎隊準制限ディニク制限と若干の規制を受けましたが、魔導征竜の弱体化に伴い、環境復帰を果たします。
 11月には2回目のリミットレギュレーションが実施されましたが、その時は変更なしとのことで、当時は「2回から4回に増やしたとはいえ、環境が荒れなければ規制しないこともあるのかな」くらいに思っていました。最もそんなことはほとんどなかったのですが。

2014年-環境復帰と龍騎隊規制

 当時は今ほどYoutubeやSNSは盛んではなく、MDもなかったため、環境に対する研究の速度はそこまで早いものではありませんでした。とは言え時間がたってくると環境が安定し、その時にトップに立っているのは征竜でした。そしてその都度規制され、研究が再開し、しばらくすると環境入りを果たすということを繰り返していました。
 この征竜のしぶとさが目立つ環境ですが、水鱗精も健在で、この征竜の研究が進んでいない段階では環境のTier1になることもありました。
 そのような訳でついに4月に龍騎隊が制限になり、アドバンテージの供給源を失った海皇は弱体化します。そのころにはダークロウやミドラーシュと言った重装兵の除去が効かないシステムモンスターが増えてきており、これらに対しても非常に弱いところでした。
 この後はフィッシュボーグアーチャーとアビスパイク、グンデを組み合わせて毎ターンレベル7シンクロを出すグンデループ型が一定の成績を残しますが、またもや環境から退くこととなります。

2015年-海皇子ネプトアビスの登場

 そんな中2月発売のクロスオーバーソウルにて衝撃のカードが登場します。
 ご存じ海皇子ネプトアビスです。海皇を起動しつつ海皇をサーチするこのカードの登場により、ネプトアビスと水1枚からメガロアビスのワンキルが可能になります。しかもこのカードはワンフォーワン、深海のディーヴァからリクルート可能であり、7枚体制で後攻ワンキルを可能としました。当時はエフェクトヴェーラーと増殖するGくらいしか手札誘発はなく、DDクロウで龍騎隊のサーチを止めることもできない裁定だったので、この安定した後攻ワンキルを止める手段は少ない状態でした。というわけで3度目の環境入りを果たします。
 元々海皇水鱗精は海皇を水鱗精で起動するデッキでした。しかし、ネプトアビスにより海皇自身が海皇を起動できるようになったため、水鱗精はデッキから抜け始めることとなります。
 その後やりすぎと判断されたため、10月には深海のディーヴァが制限になります。
 海皇はこのネプトアビス1枚で10年近く戦うことになります。まさか10年戦わされるとは思いませんでした。

2016年-餅カエルと壊獣登場

 その後、流行するペンデュラムテーマ相手に魔封じを使って何とかする時期が続くわけですが、7月にインヴベイジョン オブ ヴェノムにてまた衝撃のカードが登場します。

 と言うか1月パックの収録ではなかったのですねこいつ。当時としては破格の妨害性能、そして現代遊戯王でもスプライト1強環境を生み出し禁止にぶち込まれるという2022年の先駆け的存在となっています。
 海皇水鱗精において、ディニクオーケからゼンマイシャーク経由でバハムートシャークから出すルートと素引きの鬼ガエルから出すルートの2つを用いることができました。
 さらに秋ごろにはEXTRA PACK 2016が発売、現在でもサイドデッキのお供となる壊獣が登場します。当時はブラックホール制限、サンダーボルト禁止だったにもかかわらず、妨げられた壊獣の眠りはブラックホールをぶち込みつつリクルートもするという破格の性能を有しており、海皇のネプトからのワンキルを補助する役割もありました。
 当時は【壊獣ガエル海皇水鱗精】と言ったごちゃごちゃしたデッキがよく見られました。

2017年-リンクショック到来、そしてハリファイバー誕生

 1月には十二獣が登場し、環境は十二獣一色になります。マスターデュエルではブルホーン禁止にもかかわらずデュエリストカップで成績を残しています。海皇は様々なものを犠牲にして速度を上げる十二獣海皇が一度結果を残した程度で、完全に環境から消滅します。
 4月になると新マスタールールが誕生、エクストラデッキから出すモンスターはエクストラモンスターゾーンかリンク先にしか出せない、と言うルールになりました。これに伴い十二獣を除くほぼすべての環境テーマは壊滅的な打撃を受けました。当時はリンクモンスターも整備されておらず、2体目のシンクロ、エクシーズモンスターを出そうとしたらバニラ同然のリンクモンスターを出す必要がありました。十二獣だけはそこまで展開するデッキでもないので、ドランシアなどを出す分には支障がなく10期最初のパックでミリスレディエントという、地属性汎用リンクを最初にもらうなど優遇を受け、リンクモンスター自体もまだまだ展開力は足りない状態だったため、一強状態が続くことになります。
 海皇水鱗精もバハムートシャークから餅カエルを出せなくなるなどの影響は受けたものの、他のデッキと比較すると影響は少なく、相対的に注目が集まることとなりました。
 11月になるとLINK VRAINS PACKが登場、水鱗精もサラキアビスが収録されますが、何と言ってもハリファイバーですね。

 ディーヴァの通常召喚、あるいはその後彩宝竜が収録されたことで、ネプトから1枚でハリファイバーを立てることが出来、さらに展開が伸ばせるようになります。
 ハリファイバー以後の海皇はハリファイバーに完全に依存して何とか環境相手に戦っていく、そういう状態になります。既に登場から5年経過しており、同期や後発のテーマの殆どが環境の変化で取り残されている状態の中、何故戦えるのか不思議でもあるわけですが。

2018-19年-雪花型、トロイメア型の登場

 初めに断っておくとこの時期は筆者引退しており、詳細なことは分かりません。
 この時期はハリファイバー登場後でエラッタ前のサモンソーサレスから餅カエルを出したり、雪花の光を投入したほぼモン型が登場したり、トロイメアマーメイド投入型があったりし、成績を残したようです。詳しい人教えてください。

2020年-「深海の」新規

 さて筆者は再び復帰した訳ですが、この時期はETERNITY CODEにて深海シリーズが登場、深海のディーヴァも制限解除されることにより、海竜族プッシュが始まります。
 ただ、「深海の」は様々な欠点を有していました。まず、カテゴリー化ができなかったことがあります。上記新規の「深海の」の英訳はDeep Seaですが、以前に「深海の」の名前を持つカードの英訳が必ずしもDeep Seaではなかったこと、Deep Seaの名前を持ちながらも「しんかいの」と読まないカードが有ったことが大きな要因と推測しています。
 それ以上に大きかったのが共通効果が殆ど活用されなかったことです。「深海の」は特殊召喚時にアドバンテージを獲得する効果を有していますが、ディーヴァでネプトアビスを特殊召喚出来れば誇張抜きで勝てるので「深海の」をわざわざ出す理由はありませんでした。
 このような状態だったため、環境上位に食い込む、と言うことはありませんでしたが、「ミンストレルでピーピングハンデスして誘発除きながら展開できる」というメリットを獲得したため、大会でも一定数は見られるようになり、落ち消しでムーランのレベルを4にしてバハシャ餅を作る構築がycsjで成績を残したりしました。

2021年-ハリラドンVFD軸

 リンクロス禁止に伴いアウローラドンを投入する型がメインとなります。アウローラドンからの展開ルートは様々な開発がなされましたが、ネクストプレイの動画で話題になったアウローラドンからメイデン、コーラルドラゴンを経由してVFDを立てる構築がメインデッキの圧迫が最小限で済むため流行し、CSなどでも一定の成績を残すようになりました。
 VFDが禁止になって以後も展開の着地点を変えることでそこそこの力を残していました。

2022年-スプライト混合型の登場

 2022年になるとスプライトが登場し、環境はスプライト一強となります。深海のディーヴァはお手軽にランク2を立てることが可能だったため、スプライトに出張するようにもなります。それに乗じて海皇もスプライトを取り入れた構築が採用されるようになります。
 スプライトに出張するディーヴァは所詮ディーヴァか重装兵しか呼ばないため、ディーヴァのリクルート効果はスルーするのが安定でしたが、海皇スプライトではネプトアビスからピーピングハンデスが通るため、ディーヴァがマストカウンターになります。
 純構築スプライトより先行に寄せた構築とはなりますが、筆者もこれで成績を残すこともできました。
 その後ハリファ禁止に伴い、落ち消しルートは残るとはいえデッキ内の素引きしたくないカードが増えるこの構築は厳しくなりました。

2023年-鏡魔師展開

 2022年と2023年では海竜族の新規がそれぞれ2枚とほとんど無いような状態が続きました。2022年はスプライトの登場により何とかお茶を濁せていましたが、2023年はスプライトが軒並み規制されただけでなく、ハリファ禁止にともない従来の動きもできなくなったため、壊滅的な状態が続いていました。
 数少ない良いニュースとして晩秋にハリファの代替となるカード、氷結界の鏡魔師が登場しました。スプライトスプリンドで鏡魔師を落として晶壁をサーチし鏡魔師を蘇生すれば3体のトークン生成により、ある程度展開が伸びるようになりました。とは言え、ネプト+彩宝竜の組み合わせだと事実上困難(イモータルルーラー+ゾンキャリで不可能ではない)であるため、初動が非常に少ないのと、ハリファラドン展開に比較すると最終盤面が弱いことから、本調子とは言えない状態です。

終わりに

 海皇は2012年の登場ながら、意外と長い期間環境で戦ってきたのがわかるかと思います。海皇が戦えた理由として、海皇としてのギミックは相当昔に陳腐化していたものの、先行特化の展開型として存在理由があったからだと思います。あまり言及しませんでしたが、ムーランの2ハンデスの役割が大きいところです。
 そして現状から考える海皇の強化路線としては、スプリンド鏡魔師のルートを強めるようなカードすなわち特殊召喚出来るレベル2や星6シンクロが来れば、現環境でも戦える感じはあります。反対に海皇の捨てる効果を生かそうとしたり、ディーヴァから出すことを考えるようなデザインだと、「ネプトで良い」になってしまって大した強化にはならないと思います。
 さて、一通り海皇について書きたいこと書いたところで、RAGE OF THE ABYSSの効果判明を楽しみに待つとします。

補足

Q:環境Tier表はなかったのに何でTier1とかわかるの?
A:遊戯王カード検索というサイトがあり、そこに多くのデッキレシピが掲載されました。そこには「公認大会やCS大会に限定した」、「〇年/〇月規制」というソート機能があり、カテゴリーごとの環境の数を知ることが出来ました。尚このサイトは個人サイトからSNSに移っていく世間の風潮のため、次第に廃れていき現在は閉鎖されています。

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