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序章 マネジメント・コントロール・システムのデザイン:情報デザインに関する議論から

今、ちょこちょこと書いている原稿をアップしていきます。中小企業の管理会計実務のマガジンもいずれ有料化できるくらいの価値作りたいなぁとか思ってます。これは今書いてる書籍の研究フレームワーク。デザインに関する議論と管理会計システムの関係について検討してます。

ありがたいことに研究者として飯食わせてもらってますが、管理会計もデザインも専門と呼べるほどではありません。何やっても三流です。が、学生時代からずっと庭、茶室、襖絵のデザインとしての優れてる点を考えていたように、経営のロジックも会計の計算構造もみんなデザインされてる。専門家から言わせりゃあたり前のことを中途半端かもしれないけどそれなりに書いてみました。

ぜひご一読頂き、コメントください。そのうち有料化します。ニーズないと思うけど。

1 はじめに

編集工学者であり,情報に関して数多くの論考を残している松岡(1997)は,情報の定義を①メッセージが読み取れるもの,②区別でき,差異のあるもの,③事に柄が読めるものであると述べている(松岡1997,10)。さらに,「情報は,いろんな着物をきて,次々にいろいろの乗り物にのっている」(松岡,1997,14)と述べている。すなわち,情報とはその出し手と受け手がおり,出す側は相手に対して伝えたいことを何らかの形態にして意図を載せて伝える。一方で,受け手は情報を出す側の意図を読み取ることができ,それは他とは何らかの違いが明らかにあるものということになる。そして,「情報の「のせもの」いかんにより,そこへの「のせかた」にちがいが生ずるが,いずれの場合でも,情報は,記録手続を通じてはじめて,それを「のせたもの」としての記録(記録物)recordとなる」(高寺1967,19)。その情報の元となる企業における記録は「人や組織の経験,すなわち,過去の出来事が記録されることによって外部化されることでコミュニケーションの基礎となる」(工藤2011, 5)。過去どのような取引が行われたのか,それに基づく利益計算や財産状況の把握だけに用いられるのではない。記録は企業の現在の管理・統制や未来への意思決定を行う基礎となる。

ここで,コミュニケーションの基礎が互いのレパートリーの突き合わせであり,単に情報交換をしているだけでなく,「意味の交換」(松岡1999, 118)をしているという言及を踏まえると,情報やコミュニケーションの見方が変わるかもしれない。すなわち,松岡(1999)は,「私たちのコミュニケーションにおいては,情報交換の構造が先にあるのではなく,その場に生じている先行的な編集構造が先にあるわけ」(松岡1999, 119)であり,「先行的な編集構造を観察しながら,私たちはその中から意味を拾い出」(松岡1999, 120)している。さらに,「私たちの日々のコミュニケーションで何が交換されているのかといえば,情報に関するエディティング・モデル」が交換されている」(松岡1999, 121)と述べている 。

これを管理会計を例にして考えると,企業内部においてどのようなコミュニケーションが取られるのであろうか。企業は経営者,管理者,従業員と階層的な構造を持ち,経営者が組織目標を設定して,それを管理者や従業員にブレイクダウンすることによって,目標が与えられ,組織成員が目標に向けて活動するというモデルが想定されている。しかし,それぞれの立場によってモノの見え方,捉え方には相違があり,同じ情報を見たとしても理解が一致するとは限らない。よって,いかなる編集構造を持っているかによって情報の捉え方が変わるし,経営者が管理者に対して,管理者が従業員に対して,あるいは逆方向であっても,伝達する相手側の編集構造とすり合わせながら情報が交わされることになる。このとき,考えなければならないのは,ある編集構造を持つようにシステムを整備していくのか,多様な編集構造を前提にシステムを整備していくのかという点である。つまり,コミュニケーションを成すヒトがいかなる思考を持っているのか,それによってシステムがどのように作り変えられるのかを考察することが求められそうである。

そうした分析モデルを構築するにあたり,本書では「デザイン」に関する議論を参考に,マネジメント・コントロール・システムのデザインを検討することとする。これにより,システムそのものにどのような管理技法をプロットするか,プロットされた管理技法によってどのような管理プロセスが構築されるのかというシステムそのものの機能に着目するだけでなく,システム構築に携わる経営者や,管理される対象であるとともに情報の生成,あるいは利用を行う管理者や従業員といった組織成員が持つ概念モデルがシステムにどのような影響を与えるのか考察できるものと考える。

そこで本章では,「マネジメント・コントロール・システムのデザイン」を明らかにするための準備段階として,本書の分析モデルの構築を図ることを目指したい。

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