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第8章 老舗中小企業における直接原価計算の導入と実践:部門別限界利益管理の展開

第8章は鹿児島市内の老舗中小企業における直接原価計算の導入について。ここが面白いのは経営者自身が事業承継の後に中小企業大学校へ行って直接原価計算を学習し,顧問税理士に対して会計ソフトの入れ替えまで進言したこと。さらに,直接原価計算を活用して部門ごとの限界利益を算出させ,社内振替価格の設定を行うことを通じてコミュニケーションを円滑にしようとしたところ。顧問税理士も会計ソフトを切り替えたことでさらに事業を伸ばすことができたというWin-Winの関係が築けたというのも興味深い。

ということで今回のトップ画像はやはり桜島。2017年12月に某財団のセミナーでお話させてもらった時に撮影したものです。ぜひご一読ください。

1.はじめに

日本における中小企業の大きな特徴として,いわゆる「老舗」と呼ばれる企業が多いことを指摘できる。創業から100年以上経過している企業を「長寿企業」と呼び,調査を実施している帝国データバンクによれば,2014年に調査対象となった母数145万社のうちの1.89%である27,355社が「長寿企業」に該当したという。この中で最も多いのは酒造業の725社であり,生活に密着した製品を長年作り続けている企業が長寿であることを伺わせる。また,こうした企業の自己資本比率は,全サンプルが19.99%であったのに対し,「長寿企業」は27.93%と自己資本比率が約8%高いことが報告されている。この要因は長年事業活動を継続してきた源泉としての内部留保の存在が示唆されている(帝国データバンク2014)。

そこで本章では,鹿児島県鹿児島市に本社を置く醤油・味噌醸造業を営むF社を事例として取り上げ,その管理会計実践を述べていくこととする。後に見るように,F社は1870(明治3)年に創業し,薩摩藩の御用商人として長い歴史を有する老舗企業である。また,インタビュー調査の中でF社長は経営目標として「存続と継続」を掲げ,毎期一定の利益を確保することを念頭に経営を行っている。加えて,同社では直接原価計算を用いた限界利益管理を実施している。すなわち,社歴の長い中小企業が経営理念の実現とその存続を担保するための限界利益管理をどのように展開しているのかについて理論的な検討を行うことを本章の目的とする。

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