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企業はなぜ管理会計をするのか?:奄美大島における企業調査録

3/3-4で奄美大島へ行ってきた。例によって例のごとく、COVID−19の影響で同行する先生方と中止にするかしないかを議論しながらであったが、調査を行うことにした。

奄美大島へ訪問するのは2度目である。前回も調査で、同じ会社を訪問した。今回の研究テーマはファミリービジネスにおけるコーポレート・ガバナンス。科学研究費を取得しての調査だ。また、私自身は前回の調査をもとにファミリービジネスの管理会計について論文を執筆できるのではないかと考え、この間積み重ねられた先行研究と前回調査の内容を踏まえて論文執筆の許可を頂きに行くことが目的だった。

調査から明らかになったこと:ファミリービジネスだからこそ

詳細はいずれ論文に書くので割愛するが、結論から言えば非常に面白い事例になりそうだということ。

創業者が企業家精神を発揮して新たに事業を立ち上げ、サービス業中心に発展し、やがては地元に貢献したいという気持ちを持つ。そうした中で取引先から企業譲受の話があって焼酎メーカーを買収。2代目経営者が自ら中心となり、これまた企業家精神を発揚してグループ企業の中核に育てていく。

サービス業から製造業へのシフト、製造業からサービス業へサプライチェーンができることで企業は成長する。しかし、島内では需要に限界があるので、いかにして事業を島外に拡大していくか。そこでいかにManagement Control Systemu(以下、MCS)を構築していくか。そのストーリーが興味深かった。

すでに先行研究では、ファミリービジネスにおける管理会計やMCSの特徴というものがドイツやイタリアなどの国々で研究されている。ファミリービジネスは戦略的意思決定において長期視点を持つ、非財務的目的を強調するといった特徴を持ちつつ、管理会計研究との関連ではそうした特徴が管理会計やMCSにどう影響を及ぼしているのかという視点で研究が進められている。特に、創業家によって支配されている経営管理者層や管理者間の信頼関係があるので管理会計やMCSが非公式的に設計されているという視点が面白い。

こうした知見は主に実証研究(特にインタビューが多い)で示されていて、創業世代は後継世代に比べて戦略的な管理会計技法を、後継世代は創業世代に比して現業統制的な管理会計技法を用いる特徴があるとされている。あるいは創業家は会計情報の利用がそれほど高くないとか、創業家内のキーパーソンがいなくなることで”Organizational Memory”への対処が必要になるといった、ファミリービジネスだからこそ問題になるであろう指摘もなされている。

では今回の訪問企業はどうだったのか。それはいずれ発表される論文をお読み頂くとして…。

いや、簡単に書いておくと、自分自身が経営者としてすべてを見ることができないし、組織としてアクセルを踏むべきところとブレーキを踏むべきところがあるので仕組みを導入しておかなければならないと考えたし、実際には仕組みを導入しているし、見えるものは見えるようにしようとしているということである。創業者へのリスペクトは失わないように、しかし、事業として多数の従業員を抱えている以上、安定的に経営が営めるようにと、必要なところには人を手当てし、ファミリービジネスの長所・短所を理解しながら、仕組みでカバーするべきところはカバーするようになっている。

先に述べたように、先行研究ではファミリーで経営しているということが管理会計やMCSの設計、運用に大きく影響をしていることが示されている。加えて、この企業では創業者の企業家精神の発揚と2代目経営者による公式的なMCSの導入によって成長と安定、地域貢献とをうまくバランスさせている。これは非常に特徴的だと考える。そして、なぜ経営者はそうした仕組みを導入しようとしたのか、導入してからこれまでどんな課題があり、どうクリアしてきたのか、このあたりを詳細にお伺いできたことで今回の調査は非常に意義深いものになった。

仕組みの導入は偶発的?必然的?

自分自身の研究テーマとしては「では、経営者は何を考えてシステムの設計や運用をしているのか」を明らかにしようとしている。要するに、いかにシステムをデザインしているかというのが問いである。

ここで間違えてはいけないのは、システムがどう機能しているのかのみを明らかにしようとしているのではなく、なぜシステムを構築しようとし、それがどのようにして始まり、どう構築され、今どう機能しているのか、その課題は何かという一連のプロセスを明らかにしなければならないということである。

システムを中心に見ていけば、そこにあるシステム(もの)を所与に実態を捉えて記述すればいい。技法研究ならこれで良い。零細企業と呼ばれる企業では現場の数量情報が重視される一方で、企業規模が拡大し、部門別に分かれることで責任会計が導入されていく。

しかし、今捉えようとしているのは目に見えるシステムの変化ではなく、「その仕組みが必要だと認識したタイミング」であり、「それをどのようにデザインしようとしたのか」ということである。本当はこれを動態的に見ることができれば良いのだが、なかなかそういうわけにはいかない。これまで数社の経営者に話を伺ってきたが、経営の安定化のためにシステムを導入するは同じだとしても、そのキッカケは偶然的にやってくる場合もある。創業者ではなく、2代目になったからこそ守りのために管理会計やMCSを導入した経営者もいる。初めから今あるような仕組みを想定していたわけではないけれども、気づいたらこうなってたという経営者もいる。

そしてシステムは単に導入すれば良いわけではない。組織成員の合意・納得も必要になる。彼らにとって自分たちが何によって測られているのか、目の前にある実際がどのような状況にあるのかをわかるように測る仕組みを作らねばならない。これを計算構造としてどう構築するか、組織成員のパフォーマンスを最大化するための装置をどう設計するか。これが管理会計あるいはMCSのデザインだと考えている。

中小企業を対象にしている理由は、そうしたシステムのデザイナーである経営者が何を見て、何を考え、どう形にしているのかを見えやすいだろうと考えているからである。組織形態がシンプルで、経営者の意図が反映されやすいということもある。

どうしても人間はそこにあるモノを静態的に考えてしまいがちだけども、実際はもっと動態的なのだろう。まだ十分に頭がクリアになっていないのが悔しいが、これが少しでも見えてくるとゴールに一歩近づくのかもしれない。


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