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情報デザインの考え方を管理会計システム利用の説明理論として適用するための覚書(2)

絶対この仕事には向いていないと思っているんだけど、いろいろと勉強し始めると楽しく感じてしまう。が、たまに過去メモしたノートが出てきて、「また同じことやってるよ!」となってしまうこともあって、その時は愕然とする。ま、行きつ戻りつして学びが定着するのであればそれでよし。じっくりやることにします。

今日も昨日に続いて情報デザインに関するテキストのメモ書きをまとめてみることにします。

デザイン概念をMCSの説明に活用する前段として②

まずはこのテキストから。

情報デザインフォーラム編(2010)『情報デザインの教室』丸善出版
このテキストでは情報デザインを「1980年代後半から発達した、人間中心的なデザインの総称」(p.2)とざっくりと定義している。

人間中心的なデザイン(HCD)は、ノーマンの著書にも出てくる考え方であるが、これは製品デザインとは異なり、デザインする対象が「ユーザーが製品を使用するrことによって得られる豊かな体験」(p.3)であり、その体験をデザインするためにはネットワーク全体の関係性をデザインする必要性が指摘されている。例えば、コンピューターやスマホでは見た目の美しさだけでなく、操作性やわかりやすさが求められるようになり、インターフェースのデザインの重要性が高まっている。さらにコミュニティデザインという言葉あるように、社会をデザインする、人々が安全に快適に暮らせるようにコミュニティの活動をデザインしていくといったことまでがデザインの対象になっていることを指摘している(p.7)。

そうした中で、本書では「組織における情報デザイン」として経営理念を題材にその検討が行われている。ここでは、次のように説明がなされている。

情報とは「知りたいこと」「知らせたいこと」であり、デザインとは「人と人の接するプロセスを媒介すること」である。したがって、多様な人材によって、より大きな目標を達成するには、本質を見極め、情報をいかに効率的に共有できるか、それを戦略として構築し、意欲を持って実行できるか、そのプロセスである情報デザインのあり方が重要な役割を果たす(p.26)。

そして、企業における情報デザインは、理念の実現、戦略の策定、研究開発、企画、マーケティングなどのさまざまなフェーズで活用できると説明している。

対象や周囲との関係性を観察し、俯瞰的に思考や概念を組みたて、メディアに応じて可視化するという情報デザインのプロセスそのものが、暗黙知と形式知の相互変換であり、創造とイノベーションの駆動力となる。情報デザインをあらゆる組織の業務フローに適用することで、本質的な価値を探究し、様々なステークホルダーに新たな顧客価値を届けることが可能となる(p.26)

んー。言いたいことは十分に理解できるが、細部を詰めだすと「ちょっと待って!」となりそうだ。もう少し検証が必要だが、MCSの説明に「デザイン」というキーワードを使って説明するというのは問題なさそうだ。

と思っていたところ、同書は「組織と戦略」の項目で次のようにも書いている。

情報デザインは、人間とモノと環境との関係性を表現する方法論であるので、まさに組織の戦略を思考し、それを可視化することで組織の人材が共通の目標として共有化することに展開されている。その中でも知識やデータの組織化を意味する情報アーキテクチャは、業務の関係性や人と人との間を「情報をわかりやすく伝える」、「情報を探しやすくする」ことでつなぐための技術である。それを応用し、価値向上に貢献できる情報の関係性を構築する活動が様々な業務フローで可能になる。また戦略に重要な要素である、理念、ミッション、ビジョンを可視化することで価値観が共有される(p.29)。

もうなんでもありやん(笑)。アーキテクチャ論もその昔少しだけ勉強したことがあるが、ここでこうやって結びつくってのは「そういうもんだ」ということなのでしょう。泥沼にはまりそう。

D.A. ノーマン(訳書2015)『誰のためのデザイン?(増補・改訂版)』
続いてはこちら。現在の「デザイン」に関わるさまざまな理論や実践に大きな影響を与えている1冊。アフォーダンスだったり,人間中心設計であったりは一番最初このテキストで学んだと記憶している。

まず,良いデザインにおける重要な特性が2つあるとされる。それは発見可能性理解である。

発見可能性:どういう行動が可能か,どの部分をどうすればよいのかを見つけ出せるか。
理解:それがいったい何を意味しているのか,その製品はどんな使われ方が想定されているのか,いろいろ異なる操作部や設定は何を意味しているのか。
デザインは,モノがどう動くか,どう制御されるのか,さらには人とテクノロジーのインタラクションの特性に注目する(p.7)。

人間中心デザイン(HCD)
HCDは,昨今注目されている「デザイン思考」の中核的概念。その原則は「できるだけ長い間,問題を特定することを避け,その代わりに暫定的なデザインを繰り返していくことにある」(p.12)とある。「問題を特定することを避け」るというよりも,暫定的な結論をもってテストし,それによって問題定義を修正していきながら,「人々の真のニーズにきちんと合致する」(p.12)製品やサービスが作られていくというイメージが適切であろう。

HCDでは,まず人間のニーズ,能力,行動を取り上げ,それからそのニーズ,能力,行動に合わせてデザインする。(中略)ものごとがうまくいっているときだけスムーズに協調して動くモノをデザインするのは,比較的容易である。だが,不具合や誤解があると,問題が起こる。良いデザインが必要とされるのはここである(p.11)。

「経験(エクスペリエンス)」がHCDにとっては重要な鍵概念になるが,人が製品やサービスとインタラクションする際に重要になるのが発見可能性である。発見可能性とは,先に記したように「どういう行動が可能か,どの部分をどうすればよいのかを見つけ出せるか」であり,ノーマンによれば次の5つの心理学的概念から構成されると述べている。そして,これらより重要な原則としてシステムの概念モデルがある。

アフォーダンス:モノの属性と,それをどのように使うことができるかを決定する主体の能力との間の関係のこと。
シグニファイア:アフォーダンスのシグナル的要素。人々に適切な行動を伝える,マークや音,知覚可能な標識のすべてを示すもの。
制約
対応付け:2つの集合の中の要素同士の関係を意味する。
フィードバック
システムの概念モデル:きわめて簡素化された,あるモノがどう動くかについての説明。

さらに,テキストではアフォーダンスとシグニファイアという重要な概念について次のようなまとめを与えている(p.26)。

・アフォーダンスは人と環境の間で起こりうるインタラクションである。アフォーダンスの中のあるものは知覚可能であるが,そうでないものもある。
・知覚されたアフォーダンスはシグニファイアとして働くことが多い。しかしそれは曖昧な場合もある。
・シグニファイアはものごとを示唆する。とくにどんな行為が可能か,それがどう行なわれるべきかを示す。シグニファイアは知覚されるものでなければならない。そうでないときはうまく機能しない。

概念モデルについては次のような説明がある。

モノがどのように機能するかについての主な手がかりは,知覚された構造から得られる。とりわけ,シグニファイア,アフォーダンス,制約,対応付けからだ(p.36)。
概念モデルは,理解を助けたり,モノの動きを予測したり,モノが予定通りに動かないときにどうすればよいかを知るのに役に立つ。良い概念モデルがあると,自分の行為の結果を予測できるようになる(p.38)。

ただし,厄介なことは人の持つイメージや記憶である。「人は,自分自身や他者や環境,そしてその人がインタラクションするものに対して,メンタルモデルを作り出す。これは経験や訓練,指導などを通して身に付ける概念モデルである。そして我々の目標達成や実世界を理解するのを助けるガイドとして働くのである」(p.42-43)。一旦作られたシステムは,それがそれ自体で利用者等と向き合うことになるので,デザイナーの意図とは異なって利用されることもある。そこでテキストでは,「デザイナーはユーザーの持つモデルはデザイナーの持つモデルと同一であると期待しているのだが,ユーザーとは直接コミュニケーションできないので,そのコミュニケーションは全面的にシステムイメージに負うことになる」(p.43)とも述べられている。

第1章の最後にはデザインの目的が以下のように示されている。

挑戦すべきは,良い成果を作り出す,つまり生活を向上させ,喜びと愉しみを加える製品を作るために,人間中心デザインの原則を使うことである。目標は,すばらしい,顧客に愛される,優れた製品を作り出すことである。それはできるはずだ(p.49-50)。

今日はここで力尽きそうなので,明日以降にこの続きはまとめていくことにする。ただ,今,パッと本をめくっていたら,デザインの7つの基礎的な原理が導かれるとあったので,そこをメモして終わりにしよう。

デザインの7つの基礎的な原理(p.101-102)
発見可能性:どのような行為が行なえるのか,機器の今の状態はどうなっているのかが判断できる。
フィードバック:行為の結果と製品やサービスの現在の状態についての完全かつ継続的な情報がある。行為が実行された後,新しい状態がどうなったかが分かりやすい。
概念モデル:デザインは理解と制御感につながるように,システムの良い概念モデルを作るのに必要なすべての情報を伝える。概念モデルは,発見可能性と評価の両方を向上させる。
アフォーダンス:望ましい行為を可能にするために適切なアフォーダンスがある。
シグニファイア:効果的にシグニファイアを利用することによって,発見可能性を確かなものにし,フィードバックが理解可能なかたちで伝えられる。
対応づけ:制御部と行為の間の良い対応付けの原理に従う。それは,可能な限り空間的なレイアウトや時間的な接近によって支えられる。
制約:物理的,論理的,意味的,文化的な制約を与える。これによって行為を導き,解釈のしやすさを助ける。

MCSや管理会計システムの場合,コミュニケーションの基礎となる情報を提供する簿記システムは大きく記録の捕捉方法を変えることはないし(測定問題),使用量や取引量といった物量情報によって企業活動が捕捉されることも大きく変わらない。ただし,それに基づいて管理を行う場合,戦略的な業績評価尺度や業績管理としてのKPI(Key Performance Indicator)は変わる可能性があり,経営者が考える経営目的を実現するために組織成員に対してどのような成果を求めるか=目標の見せ方は変わるだろうし,他の経営管理システム(例えば目標管理制度)が新たに導入されることにより,期待される成果が異なることから,組織成員の行動そのものが変わる可能性もあるだろう。

つまり,経営者は組織成員の活動の成果を何かしらの業績管理指標をもとに確認するが,一方で組織成員は日常的な業務活動を行いながらも,定められた業績管理指標=ノルマを達成するべく行動する。彼らの経験(実践)を組織目標にとって適切な方向に導くようにするのがMCSや管理会計システムということになる。

それらを機能させるためには情報利用者(経営者であり,組織成員であり)が理解可能な概念モデルを持つこと,望ましい方向へアフォーダンスが発揮され,何を目安にすればよいのかという目印としてのシグニファイアをどう作るかが鍵ということだろうか。

これまでの研究で見てきたところで言えば,最も基礎的に言えば製造数量,時間といった製造現場で使われる物量情報であり,貨幣的情報で言えば売上高や原価,利益,さらに加工された情報で言えばがんばり益部門別限界利益1時間あたり加工高といった当該企業内で利用されている業績管理指標がそれだと言えるだろうか。

あるいは,経営戦略の変更に伴って組織成員の給与を自ら決めさせる仕組みを導入したり,製品に対する顧客のちょっとした悩み=ボヤキを製品開発に活かしながら原価上昇分を売価上昇で補うようなビジネスモデルの構築(戦略管理会計)も,同じように言えるのだろうか。

このあたりのイメージはこれまでもずっと持ってきたのであるが,もう少し厳密な検討を必要とするだろう。

最後に,ノーマンのテキスト第2章の最後に以下のようなことが述べられていたのでメモしておく。

「良いデザインでは,各段階での要求,意図,要望が忠実に理解され,他のすべての段階で確実に尊重されるように,システム全体を考慮する必要があるのだ」(p.103)

まさに,良いMCSや管理会計システムがどのように構築されているのかをこうした視点で検討していきたい。このあたりは研究書の終章のまとめに位置づけられるものになるのかな。

今日はここまで。

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