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外部環境への適応として事業内容を転換する:中小零細企業でもそれは同じ

今日(3/19)は本来であれば学位記授与式。しかしながら,昨今のCOVID-19の影響から本学は入学式と合わせて中止となりました。学内にはチラホラと袴姿やスーツの卒業生,先輩の卒業を祝う後輩たちの姿が見えます。

ゼミとしては公式行事を一切中止にしたため,この3月年度末は静かに過ごしています。卒業される皆様の将来が素晴らしいものになりますように。

さて,今回の記事も一昨日に続いて岡山県津山市での調査についてのメモ。一昨日の記事は下記からお読みください。

今回の調査は自分の中ではエクストラのつもりでいたのだが,やはり企業経営の現場は面白い。ちょっとしたネタがいくらでも転がっている。1社目は2月に講演で訪問した際に懇親会でご挨拶した精密部品加工メーカー,2社目はもともとは縫製加工の下請をしていたが,そこからの脱却を図るために事業構造を変えようとしている縫製加工業であった。

1社目:テレビボリュームの組立→レントゲンの組立→ビデオモーター塗装→ハードディスク用モーター塗装→巻線からの精密部品加工への移行

1社目は津山市の北部に隣接する鏡野町にある精密部品加工メーカーさん。津山は岡山県北部の中心都市だが,1970年代から中国自動車道が開通したことを契機に,関西方面の製造業(電機,食品,製薬)の工場やそれらの企業を取引先とする中小企業が集まるようになり,津山ステンレス・メタルクラスターという金属加工を行う中小企業のグループを結成している。

同社のWebページから拝借しました。外観。

同社はこの中の1社。会社名には「電機」と書いてあるのに精密部品加工メーカーだという違和感を持っていたのが,話をお伺いして氷解した。

元々は会長(創業者であり現社長の父親)がこの地に1970年代半ば創業したが,当時は電機メーカーが成長していく中で製品の部品製造の下請を行っていた。やがて日本を代表するモーターメーカーが必要とする巻線や加工を行うようになったそうだ。そうした中で1990年代半ばに金属加工を行う機械部門が立ち上がり,徐々に売上シェアが逆転。リーマン・ショックを契機に元々の社業を閉鎖し,現在は機械部門1本で事業を行っている。

同社の強みは多品種少量生産,短納期(場合によっては夕方受注して夜発送)にある。この短納期に応えるため,同社は必要な材料を在庫として抱えている。在庫も特定の材料だけでなく,さまざまな金属材料を保管している。これにより,同社では顧客のニーズに即対応できるだけでなく,まれにクラスターに入っている企業との材料の貸し借りなども行っているそうだ。ただ,これには地域的な事情がないわけではない。材料の仕入先に対して発注をかけても入ってくるタイミングがあり,地方都市ではなかなかたやすく確保できるわけではない。となれば,在庫を持たざる得ないという側面もある。

受注は原則的に経営者が受けることになっており,従業員は技術者が大半。そのため,値決めも過去の経験則や他社のオファー金額などから判断して社長が決めている。これだけ聞けばいわゆるどんぶり勘定ということになるが,これも中小企業の経営のあり方のスタンダードみたいなものだ。

2社目:スーツ等の洋服の縫製下請→ネクタイ製造メーカーへの移行

2社目は津山市内で洋服の縫製を行っている企業さんへの訪問。従業員は10数名の中小企業だ。この企業を訪問することになったきっかけは,ある人のFacebook経由でこの記事を見たことにある。

インタビューを行ったのはこのblogの記事主。現在,社長はお母様で2代目。記事主は将来3代目になるであろう息子さん(専務取締役)。美容師として活躍していたところ,家業へのシンパシーを感じて実家に戻ったそう。しかし,当時は衰退しつつある洋服の縫製下請を主業としており,会社がいつ倒れてもおかしくないと感じていたそうだ。

周知の通り,岡山県は日本有数の衣類,特にスーツ,制服,ジーンズといったものの生産が強く,県内にはこうした企業を支える無数の下請企業がある。同社もその1つだそうだ。

しかし,これからそれでは生きていけない。かねてからの中国での製造移転等に太刀打ちすることができない。そうした中でいかにして生き残っていくのか。その中で出てきたアイデアがネクタイを作るメーカーへの事業転換であった。もともと縫製技術が高く,自信があったが,さらに付加価値が高いことが決め手になったそうだ。

この記事にもあるように2015年から製造を始め,専務自身が百貨店などで手売りをしていく中で手応えを感じたそうだ。特に顧客の声を聞くことで,それを直接製品企画に活かせたのは大きかったと語られていた。この記事にあるようにクラウドファンディングにも取り組むなど,先進的な取り組みも行っている。

さらには,こうした技術の確かさが大手スーツ量販店の目に止まり,この企業のブランドネーム「SHAKUNONE」を使ったコラボレーション商品も販売された。1本4,800円。

実際に販売されているネクタイを触らせてもらったが,その金額とは思えないしっかりとした縫製,生地の質感がたまらなかった。

一般的に百貨店で販売されている同社の製品は1本11,000円だが,説明を受けて実際に手で触っていた同行者(市役所職員)は即購入を決めていた。私も欲しかったし,実際に購入しようと思う。

中小企業だからといってイノベーティブではないわけではない

さて,今回は津山市で3社訪問したのだが,いずれの企業でも特徴的なのはイノベーティブな創業家一族(2代目や3代目)がいるということだ。内発的に何かを変えようというよりも,必要に迫られて,外部環境への適応として変わっていかざるを得ない中で,自分たちに何ができるのかを考え,実行に移してきたということだろうか。

その時に鍵になるのは、コスト偏重にならず、既存のビジネスの強みをもとに価値を付け足し、売価に反映させていくこと。全く新しい市場に出るのではなく、強みを横展開で切り事業領域に参入していくことなのだろう。

近年で言えば,中川政七商店や先日『カンブリア宮殿』でも取り上げられたセメントプロデュースデザインのように,技術力の高い伝統工芸品のリブランディングなどで注目されるような企業が多々見られる。しかし,そうした目に見えるイノベーションによらなくても生きていくために事業転換を図ってきた企業はいくらでもある。これまでもそうした企業にお話を伺ってきたけれども,従業員10名程度の企業群でも小さいから活かせる強みを持って日々の事業に営まれていることがよくわかった。

そんなの観念的にわかっておけよとか思われそうなんだけど,改めて話を聞くとまた違うのですよ。はい。素直に感動しました。企業訪問はだからやめられない。

最後の締めは

そうした中で最後の締めはやはり肉。

オウカク(=普通にはハラミと呼ばれる)の牛肉丼

そして,津山を離れた。岡山駅で乗り換えて,約3時間半後,福岡に戻った。戻ってすぐ待ち受けてたのは市役所でのミーティングでした。

日付と時間がちゃんと証明してます(笑)

この記事を書いている間,この間にいろいろあったゼミ6期生の女子3人が押しかけてきた。初めてゼミ生から「先生,バレンタインです!」といってチョコレートをくれたのも彼女たち。セレモニー自体はなかったけど,こうやって区切りの日に顔を出してくれたことは本当に嬉しく思います。

卒業おめでとう。

さ,この春の調査はこれで終わりかな。春休みも長くなってしまったので,いよいよ研究書の執筆,夏の学会報告に向けた準備に励みますかね。2020年度に向けてもうスタートですね。

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