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中小企業と地方都市で講演をしてきた:中小企業のための管理会計をテーマに

2/12に岡山県津山市で2つの講演を行うため,2/11-13の3日間,家族を伴って旅に出た。

津山は,江戸時代は当初100年間は外様の森氏が支配していましたが,以後は越前松平家(家康の次男結城秀康が藩祖)の分家=親藩大名が支配する格式の高い藩の中心地。

城好きの人から言わせれば,津山城は名城であり,当然日本百名城にリストアップされている。

津山城全景(隣のホテルの大浴場休憩室から)

また,江戸時代には肉食が禁止されていたが,彦根藩と津山藩だけは養生食として肉食ができた歴史もあり,津山といえば肉である。なので,夕飯は当然のことに焼肉。津山の肉文化は奥が深い。

表紙の画像はとある店で注文した2-3人向けの家族セット(5,300円)。定番のロースやカルビはもちろんだが,オウカクやホルモンがデフォルトで入っている。味は絶品なのに安い。都市部で食べれば倍の値段はするかもしれない。

また,そずり肉という骨の周りについた肉まで食す。これが絶品。同行した妻氏も娘氏もうまいうまいと食べていた。

津山に来たらこれを食べる。干し肉。

そして,娘氏がむしゃむしゃと食べたのが,この干し肉。今流に言えばエイジングした牛肉ということになるのだろうが,これは私も大好き。訪問先の社長曰く「干し肉なんて美味しいと思わないんだけど」ということだが,これはたまらない一品である。

もとは同僚の出張に同行して来たつもりだったのだが,気づけばここ数年,年に2-3回は訪問する街になった。そして,今回は調査ではなく,講演者としてこの街に来ることになった。

調査先企業で管理者向け研修として講演する

まず,1つめの講演は,これまで学会報告や論文を執筆させてもらった某社で行った。テーマは基本的な管理会計についてと同社で行ったアンケートとインタビュー調査を基礎としたもの。限られた時間の中で少しでも伝わるようにお話をさせてもらった。

要点は以下の通りだ。

管理会計やボトムアップ(同社では目標管理制度をこのように言う)と言うと,社長が制度化して全社員にやらせているものだという意識でしょうが,これだけの仕組みを中小企業が動かせるというのはなかなか難しいです。数字は上から降ってくるものではなくて,自分たちで積み上げていくものだという意識付けが社長から行われている。管理会計は伝言ゲームで,その伝言は階層を介せば介するほど伝わらなくなるから,管理職である皆さんが重要です。

日頃製造現場で行っている活動。なぜ歩留まりや時短が叫ばれるか。それは原価計算上ではこう計算しているからですよ。財務数値ではわかりにくいから,具体的な目標で管理するのですよ。

どうやら皆さんは社長がどういう思いで経営理念や目標設定をしているのかは十分に理解しているようですが,一方でそれそのものを理解しているとは言い切れないようですね。言えることが必要だというのではなく,この会社で働くということを考えたとき,理念というのは会社の志だから,頭の片隅に置いておきましょうね。

現場を預かる役職者に相当負担がかかる仕組みになってます。彼らをサポートするにはどうすれば良いか。そこをよく考えましょう。特に目標管理制度では中期目標の達成が意識されていますが,業績管理は単年度ベースに行われる。とすれば,目標設定の時間軸が違うのだから,評価を行う管理者側が意識しないと従業員はモチベーションを落とすかもしれませんよ。

こんな話を90分かけてしてきた。

普段90分の話を聞く機会というのはほとんどないであろうが,とても熱心に聞いてくださり,こちらも熱を帯びた講義になった。

講義終了後,同席していた妻氏が一言。「この会社ってこんな管理会計やってるんでしょ。それをあなたの話を聞いて理解しようとしてるんでしょ。とてもレベルが高いわよね」と。よくわかってるやん。だから,研究対象として調査に何度も来てるんだって。肉を食べに来てるわけではないよと話した。

経営者向けに管理会計とはなにかという講演をしてきた

続いて夜はつやま産業支援センターのお招きにより,メタル交流会という経営者向け懇談会で講演をしてきた。

津山はステンレスやメタル製品の加工技術が優れている中小企業が多くあり,1980年代はじめから関西方面の工場の生産設備の部品を加工する中小企業が多く集まってきたそうだ。中国自動車道の開通により,ここから大阪まではそれほど遠くない。そうした企業群をクラスター化して,街として中小企業の支援を行うために津山ステンレス・メタルクラスターという団体を作っている。

当日蓋を開けると40名ほどの参加者の方がおられた。このクラスターに所属する経営者だけでなく,市内にある中小企業経営者も多く来られたようだ。恐らく普段こういった話を聞く機会が少ないのだろう。大変恐縮したが,90分間にわたりたくさんの内容の話をした。

マネジメントは損益分岐点分析/直接原価計算を使いましょう。

コストを削減するだけでなく,ブランドを構築して収益力を高めましょう。

そのためにイノベーションをもたらす仕組みづくりをしましょう。具体的には需要可能な損失(affordable loss)を決めて,その範囲内でチャレンジすることで(今流に言えば)「両利きの経営」ができますよ。

そして,最後には中小企業で必要な管理会計は,①会社が存続可能な利益目標を定める,②設備投資意思決定計算(回収期間法でOK),③資金繰り,④損益分岐点分析/直接原価計算の4つですよということを強調した。

大学で話をする5回くらいの講義内容をギュッとまとめて話したものだから,いつもお世話になっている経営者からは「先生の今日の話は難しかった!」とお言葉を頂いた…。そうです。やりすぎました。

が,これを5回くらいで講義すると,もう少し身のある話ができますよということをお伝えしたかったのです。1回話したくらいではわからない。試行錯誤を重ねながら仕組みを作ることから始めれば,数年後にはきっと経営がもっと安定するはずですよ,より良くなるはずですよとお伝えしたかったのですね。

講演をして感じたこと

講演を終えたあと,質疑応答があることが1つのバロメーターなのだが,今回は直接質問というものはあまりなく,伝わっていないのではないかと不安に感じた。しかし,懇親会では,私のつたない話をもとにした管理会計についての議論に大きな花が咲いていた。話の中で事例として津山市内の某社の話もしたが,その社長が「この人を何回か読んで,講義してもらって街の中小企業のレベルを上げたらいいんや!」(意訳)というようなことをおっしゃって頂き,(周りの経営者の皆さんは少し腰が引けていたように感じましたが)それなりにいい話ができたのかなと感じた。

今回の参加者の中にはとても尖った面白いビジネスをされている方もおられて,最近実施した事業承継の難しさについての議論も拝聴した。

地方の中小企業は団塊世代がすでに引退し,その後継者たちが経営を行うようになっている。これまで私が調査してきた企業も,親やその前の世代が立ち上げた企業をいかに経営していくのかという難しさに直面しておられる。そうした中で,いかに足元を固めるのか,そのベースとして管理会計を有効活用しようという動きが見られる。

たまたまそういう企業ばかりを見てきているのかもしれませんが,これはとても大事な視点だと感じる。すなわち,①中小企業の管理会計は組織規模や事業内容に応じて変化するものの,簡素化した可変的な仕組みとして設計可能であること②ファミリービジネス特有のガバナンス機構(所有と経営の一致)の中で,いかに創業家一族が自らを律する仕組みをどう作るかということ③教科書的な管理会計システムを自らの経営状態を見極めるためにアレンジメントを行い,目的に適合的に活用していること,というこれまでの研究成果があながち間違いではないのかなということを確認できる時間だった。もう少しこういう話をしても良かったのかもしれない。

なかなか難しいものですね。

ただ,こうやって話す機会が多くなればなるほど,頭の中はだんだん整理されていくわけで,早く研究書を書かなければいかんなとか,頂いているお話を早く書かなきゃいけないなとか,とても良い時間を過ごすことができた。

もっと書いて,早くまとめられるようになりたい。が,書けば書くほど課題は出てくる。どこかでケリをつけないとね。

なにはともあれ,津山の皆さん,大変お世話になりました。また3月にお伺いしたいと思います。ありがとうございました。

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