教えることは学ぶこと:女子商マルシェ第2回講義録
もう1ヶ月前の話になるが、9/4に福岡女子商業高校で「女子商マルシェ」に向けた第2回講義を行った。
今回のテーマは「経営計画を立てる」「損益分岐点の考え方を学ぶ」の2点。ここは前回の経営理念同様、創業体験プログラムにおいて講師役である学生に対してうるさくいうところである。自分たちが出店することを通じて実現したい社会・世界の姿はどういうもので、それをビジネスとして成立させる(顧客は誰で、何をいくらで売り、利益はいくら得られるのか)にはどうするのか。とかく具体的な話ばかりに終始しがちなところを俯瞰的に抽象的に語ることを高校生に伝えることが目的になる。
やっぱり登場するペーパータワー
これを学ぶのに彼らが使ったのがペーパータワー。
ペーパータワーの使い方はいろいろとあるが、経営計画を学ぶために使うとしたらざっとこんな感じだ。
固定費を定め、紙1枚を変動費とする。そして、タワーを建てその高さを売上とする。売上から総費用を引いて計算すると利益が出るが、その利益を最大化したチームが勝ちとなる。
1年生向けの基礎ゼミでやるとこうなる
これまでもさまざまなところでペーパータワーを使った教育機会があったが、多くの場合はタワーを建てることに専念し、コストをかけ過ぎて赤字になる。一方でコストを下げると倒れやすくなってしまう。このパターンで赤字になることもある。
ただ、このワークを損益分岐点分析を使っていかに経営をするかを学ぶものだと気づいて実践できる人は少ない。多くの場合は「なんかペーパータワーってやったね」で終わってしまうのである。
ごく基本的な損益分岐点分析は、本学部で言えば原価計算論、管理会計論、意思決定会計論といった科目で教える。講義を受けていなくても日商簿記検定2級で必ず学ぶし、商業高校でも上級生になれば学習する内容である。が、ここでも問題がある。それは資格試験に合格することと、それを使って経営をしたり、経営分析をするということがリンクしない。
形式的な知識を実践で活用できない。
一方、損益分岐点分析なんて仰々しい言い方をしているが、そんなことを言わなくても店主たちの多くは実践している。来店客1人あたりの儲けと店を運営するための必要経費が分かれば、何人お客さんが来なければ儲からないかは経験から理解できるようになる。
そんな難しい話ではないのだ。が、それをペーパータワーというゲームを介すると、途端に抽象度が高くなってゲームと実際、理論と実践、具体と抽象が結びつかなくなってしまう。
加えて女子商マルシェの講義時間は2コマ。大学生に90分でやる内容を、高校生に100分で教える。しかも、前回のふりかえりをして、経営理念を設定(再確認)し、損益分岐点分析を理解してワークをする。
学生は結構難しい授業計画を立てて授業に臨むことになった。
講義当日
そんな懸念を抱きつつ、授業当日を迎えた。
まず1コマ目。前回講義の復習から損益分岐点分析の話をする。
が、学年によっては違和感が。前回はあまりうまくコミュニケーションが取れなかった学年では座席を組み替えてみたり。
ゼミで見る景色
またある学年は机をグループごとにまとめてスタートしてみたり。
中学校や高校では割とオーソドックスな島型
ワークシートをあらかじめ用意して、理解して欲しい要点をまとめてみたり。
損益分岐点分析を習っていない学年向けワークシート
今回の学生側の授業計画は、まずインプットをしっかりやって理解をした上でペーパータワーに臨むというものだった。
また、この理解を進めるために女子商マルシェでの販売シミュレーションをしてみたらどうなるかという問いかけをした学年もあった。
休み時間。次の時間の講義をどうするか。
2コマ目。いよいよペーパータワーの時間。
まずはルール説明。いきなり固定費や変動費、売上という概念を使って考えるのは難しいので、例を示しながらタワー建設に必要な枚数を議論してもらうように促す学年も。
ペーパータワーのルール説明
こちらは板書を使いながら説明
そしてタワー建設。このワークはここが一番盛り上がる。
オーソドックスなタワーの建て方
机がそのままだと動きが制限されてしまう。
とこんな感じであっという間に100分の講義は終了した。
こちらが伝えた=理解できたではない
ところで、女子商マルシェでは近隣の企業や商店の協力もあり、30店舗程度が出店する。その企業などに生徒は夏休みにインターンシップに行ったり、市場調査をしたりするが、当日は売るものほとんどが先方の指定で、人件費も支払われず営業が行われる。しかも、商材によっては売れる売れないがあってそれによってモチベーションが左右されたり、売り切ったらおしまいという考え方に引っ張られがちになる。
こうした中で、今回の講義の最大のポイントは利益を稼ぐことが企業経営にとってなぜ重要なのか、引いては自分たちの人件費や家賃が支払われたらビジネスとして成り立つのかを考えてもらうことにある。損益分岐点図表を見て、費用や販売個数、目標利益を反映させると図がどう動くか、それが自分たちの店舗運営ではどうなるのかというリアリティを感じてもらうことが重要になる。
そのための手段がペーパータワーであり、目的は損益分岐点分析を使って自らの店舗経営ができる基本的な思考回路を作ることだ。
ところがふりかえりを始めると、多くの学生から出てきたのは講義ができたかどうかであって、生徒が理解できたかどうかではなかった。ここを求めるのは酷だと承知の上で述べるが、難しい講義をやる前に考えなければならないのは顧客の満足をどこに置くかだ。
校長先生の要望は、女子商マルシェをアントレプレナーシップを持った人間を育てる場にすること、大学生という憧れの存在から学ぶことでビジネスのあり方を知ることにある。そうした顧客の要望に応えるための講義になっていたのか。
かつ、受講生である女子高生たちが今回学んだことを活かして何を得られるようにするのか=講義でやってきたことを店舗運営に反映させられるか。もちろん当日に理解したように店舗運営ができなくてもいい。どのタイミングでも女子高生自身が気づきを得られるような講義になっていたのかが問われるべきことだ。
ただ講義をしておしまいではない。
それではそれまでの女子商マルシェと同じではないか。
少々厳しいが、道具を使って理解させた気になるよりも、その前になされるべきことがあるだろうということを伝えたくてこのような話をした。もちろん自分自身の講義への戒めでもある。
おわりに
つまり何が言いたいのか。
講義を作るには、相手に理解してもらうためには、自分たちが理解できていることが前提になる。それをあやふやなまま臨んでも誤魔化すことはできない。だから、教えるために学ぶし、教えるという行為を通じて学びが得られるのだ。教えると教わるの行き来を通じて学ぶのであって、ボーッと座って講義を聞いていても理解は進まない。と同時に、講義に前のめりに参加してもらうためにも、さまざまな仕掛けをしておくことが肝要になる。
この点、学生はよく頑張ってくれている。ただ、まだまだできる。加えて、次回10/18の講義は3-4年ゼミ生全員を連れて高校に伺う。「販売戦略」を考えるためだ。30数名全員参加で講義を行うのは非常に難しい。そこに向けてどれだけの準備ができるか。
こういう環境の中で人のために何かすることで自らは何を得られるのか、学べるのかを考えて実践できるようになってもらいたい。
ゼミ4年生が書き込んでくれたように、私は常々「ビジネスは正しくなければならない。美しくなければならない」と伝えている。
もしかしたらそれは創Pや社会課題を解決するプロジェクトよりも、女子高生に伝えようとする=授業を行うことで初めて学習できるのかもしれない。
教えるという行為から学べることは本当に大きいんだよね。
この機会をぜひ大切にして欲しい。
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