『淵に立つ』の不在と境界
浅野忠信の表情は、私を不安にさせる。『御法度』(99)の新選組新入隊士、『月光ノ仮面』(12)の復員兵、『岸辺の旅』(15)におけるすでに没したはずの亡夫、『チワワちゃん』(19)のカリスマ写真家、どこからともなく訪れて、すでにそこにいた者たちを不安にさせる存在が、浅野にはよく似合う。『淵に立つ』で浅野は、家族経営の小さな金属加工工場に突然やって来た謎の男、八坂を演じる。浅野の扮してきた役柄のひとつの典型の、新たな例と言っていい。眼光を衰えさせることなく口元に力強い笑みを浮か