4:15

まだ太陽も目を開けない4:15、携帯のアラームで夢から戻る。
薄暗い空、朝と夜が入り混じる。湿度が高い。
昨日は残業をしたので、眠る事が出来たのは夜中だった。
重たいからだを起こす。ゆっくりと覚醒していく脳で、この後待っている幸せを実感し、自然と笑顔になる。
身支度して車に乗り込む。家から空港は、一般道で到着する。
緩やかなカーブを曲がって、立体駐車場に停車する。
キーをかけてハザードランプが2回、光ると、いよいよ彼に会える事が、今更緊張に変わって心を埋め尽くす。
国際線到着ロビーは、第二ターミナル。明け方なので、ソファでくつろぐ人間ばかりだ。
エスカレーターを間違え、浮かれている事に気づいて恥ずかしくなる。

「着陸したよ」
携帯のトークルームが光って、ゲートの目の前まで急ぐ。
しばらくすると、同じ便に乗っていた人間がたくさん出てきた。
彼はどこだ?さんざん人が流れ出て行って、不安になってきたころ
のろのろと歩くセットアップが見えた。目立つな…。と思うと同時に、なんだか泣きそうになった。
眠い目をこすって私を見つけた様子の彼は、マスクから出た可愛い瞳でにこっと笑って手を振った。
「お疲れ様。仕事終わってそのままフライト乗ってきた?」
「うん。でも、空港の近くだったから、大丈夫だったよ」
「そっか。疲れたね。おなかすいた?」
「うん。ねむかったから、なんにも食べてない。おなかすいたぁー。」
おなかすいたぁーと、にこにこして連呼する彼を連れて、この時間はここしかやってないよ、とコーヒーショップへ向かう。
「おれぇ、この、いちごラテがいい。」
「食べ物は?」
「このチーズのやつがいい。」
朝からコテコテに甘い飲み物と、やたらとでかいチーズのパンを食べたいという。
向かいに座って、ぽへぽへした表情で甘い飲み物を飲む彼を見つめていた。
「おいしい?」
こくこくとうなずく。かわいいなぁ。…かわいいなぁ。
「…それだけでいいの?」
「うん。朝はそんなに食べられないよ」
「ふーん」
あなただって、朝、いつもは大して食べないくせに。

一人で飛行機にのって、一人でキャリーケースを転がして、一人でパスポート持って。
私の為だけに空を飛んでくる彼。
私が飛んで向こうに行く事のほうが多いけれど、たまにこうして来てくれると、途端にこの空港もまぶしいくらいに輝いていて、
高級レストランもここのコーヒーショップには勝てなくなって、
ただのアメリカーノも、ドロドロに甘いいちごも、全てが極上になって、
誰も何も、この世界には勝てなくなる。あなたも同じだったらうれしい。

今日は、家でゆっくりしよう。
明日は、きれいなところに連れて行こう。
明後日は、楽しいところに連れて行こう。
そんな風に、一生あなたをそばにおいておけたらいいのに。

極上の時間はあっという間で、気づいたらもう彼はステージの上にいる。
私は画面越しで見つめている。そう、これが日常なんだ。私たちの。
家で一人、味気ないコーヒーをすすりながら、それもそれで幸せかもな、と考えた。
「受け入れる」事にも幸せを感じられる。私の世界にはあなたがいるから。
大きな寂しさと少しの幸せ。あなたがいれば受け入れられるよ。

くるくると変わる表情、ふわふわ揺れる髪。
たまに冷たい表情をしてみたりして、優しく笑ってみたりして。
4つの季節の、美しいところだけを集めたような、愛しくて、可愛いひと。


My sweet baby bear.

on 25 Jul 2020 by kimchaewon.

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