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「日本のグラフィックデザイン2018」朝のギャラリーツアーがとても良かった話

ミッドタウンデザインハブで7/31(火)まで開催中の、日本のグラフィックデザイン2018。
入場無料の展示ですが、500円で解説と朝ごはんがついたギャラリーツアーが開催されるとのことで、早起きして参加しました。
朝の気持ちの良い空気の中、とても有意義な時間が過ごせたので気持ちがさめないうちにレポートを残しておこうと思います。

「日本のグラフィックデザイン2018」って?

会員約3,000名を擁するアジア最大級のデザイン団体、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が、1981年より発行を続ける年鑑『Graphic Design in Japan』。2018年版の発行を記念して、掲載作品の中から約300点を実物と映像で展示します。身近な雑貨から、書籍、商品パッケージ、シンボル・ロゴ、ポスター、ウェブサイト、映像、展覧会やショップの空間デザインに至るまで、世界でも評価の高い日本のグラフィックデザインの現在を、ぜひご覧ください。 会期:2018年6月20日(水)~7月31日(火)11:00‒19:00会期中無休・入場無料会場:東京ミッドタウン・デザインハブ主催:東京ミッドタウン・デザインハブ企画・運営:公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)

40年の歴史のある、日本で唯一のグラフィックデザイナーの職能団体、JAGDA。
海外からも貴重な資料として注目される年鑑の発行だけでなく、権利保護や次世代育成、経済や文化の活性化にデザインでアプローチすることなどに取り組まれている団体です。


ガイドツアー講師

廣村正彰 さん
グラフィックデザイナーであり「東京ミッドタウン・デザイン部」部長

林規章 さん
『Graphic Design in Japan 2018』の年鑑委員長、女子美術大学芸術学部デザイン学科教授

お二人がメインナビゲーターとなり、主に受賞作品について、デザインに対する熱い想いも交えて解説してくださいました。
このレポートでは、お二人のお話を伺う中で、私が特に心に残った作品を、ほんの一部ですが紹介させていただきます。


亀倉雄策賞

「中村至男展」ポスター/中村至男

自分の手で美しい線が引けないとグラフィックデザイナーになれなかった時代から、コンピューターでデザインを作れるようになったデジタ第一世代の中村至男さん。
計算されたベジェ曲線の歪みやはみ出しを自らのタッチにしながら、シンプルにものごとの本質に問いかけるグラフィックが評価されたそう。
一見、イラストレーターのソフトが扱えれば誰でも作れそう、と思ってしまいそうですが、デジタルツールも熟練すると、「手グセ」や「節」のような個性を出せるんだなとよくよく見ると思わされます。


ポスター

展覧会出品作品「LIFE」/永井一正

東京電力や三菱東京UFJなどの名だたる企業ロゴを手掛けられた、御年80歳の現役グラフィックデザイナー、永井一正さんの作品。
生のエネルギーが込められた、赤い色鉛筆一本で描かれた三体の動物に、大きな目と爪がつけられたシンプルなポスターですが、見れば見るほど動物が何かを訴えているようで目が外らせなくなります。
彼らはその大きな目で何を見てるんだろう。


新聞広告・雑誌広告

靴ブランドの雑誌広告「dansko」/井上庸子

靴をはいた日常のシーンがモノクロで切り出されていて、商品訴求の広告とはまた違った印象を見る側に残します。
シンプルで美しい線だからこそ映えるイラストは、漫画家の高野文子さん作です。


ジェネラルグラフィック

「PERSPECTIVE DESK NOTE」 /岡室 健

「手に取れるような小型のグラフィック」をグラフィックデザイナーが手がける機会が増え、確立されたカテゴリだそうです。
受賞には「少ロットで面白いもの」を追求したクライアントへの賞賛も込められているのだとか。
写真だとわかりづらいですが、断面部分が斜めになっていて、かなりコストのかかりそうな作りになっています。
展示品は手には取れないのですが、機能性にもこだわっているそうです。
パラパラ漫画を書いたらものすごく滑らかに動きそう。使ってみたい。


ビジュアル・アイデンティティ

「高松市美術館」VI/原研哉さん

無印良品ほか、多数の作品を生み出している原研哉さんデザインのビジュアル・アイデンティティ。
高松の街と瀬戸内の島々をモチーフに、「T」はシンボルタワー、「A」と「M」は島々の景観が表現されています。
そのバランスが素晴らしく、新しい日本のミニマリズムが感じられて評価されたそうです。
波の音とかリズムとかそういうものも表現されているような、その場所の音が聞こえてくるような気がします。


パッケージ

香水のパッケージ 「ON THE ROAD / SHE CAME TO STAY」 /中臺隆平

通常グラフィックデザイナーはボトルではなく外箱のデザインをすることが多いとのことで、中と外で担当するデザイナーが違うということにまず驚きました。
小説がモチーフになっている香水ということで、化粧品にはあまりないようなグラフィックを用いたところが評価されたそうです。
確かに、ファッション誌や写真集と言われても、手に取るまで気づかなさそう。


複合

「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」/佐藤 卓

佐藤 卓さんが2001年から取り組まれている、身近な製品を「デザインの視点」で解剖し観察した「成果の発表展示」そのものが受賞されています。
解剖を始めた頃は「何がやりたいんだ」という批判の声もあったとか。

表面的なデザインだけでなく、パッケージの素材や構造、ひいては製品の「味」までを分解し、その製品が製品たらしめられるに至る「デザイン」を全て解剖して分析されていて、デザインを「ものを見る目」として捉え、この展示会自体が「世界を見ること」が「デザイン」されているそうです。(展覧会の解説より)

展示には巨大きのこの山やロゴの再現など、あまりにも振り切りすぎていて、真面目がすぎてこうなったのか計算ずくなのかわからないところが気持ちが良すぎます。デザインのかいぼうてん行きたかったな…。


新人賞

商品カレンダー「I want to be...」/福澤卓馬

シールを貼っていくと、違う動物に変身したり、おめかししたり…と、日常を楽しくするためのエッセンスが心をくすぐるカレンダーです。
これは今すぐ欲しい!と思いました。


個人的に好きだった作品

フォトレタッチユニット「ONE TONE」

受賞作ではないですが、展示作品の中で好きだなーと思ったのはこちらでした。
写真なのは中央部分だけで、周りは写真から伸ばしたパースを写真と同じ色に塗っているだけ。
一瞬、世界観のある大きな一枚の写真かと思わされて裏切られる、トリックアートのような楽しさがあっていいなと思いました。
それがレタッチユニットの広告というところがまた機知があって素敵です。


感じたことなど

グラフィックデザインは、普段自分が携わっているUIデザイン以上に、「依頼主の思い」を「作品に写し出す」ことが強く求められるので、必然的に表現力にこだわりを持って仕事をするデザイナーが多くなるのかなと思います。
そのイメージが、一昔前の「デザイナー=こだわりの強いちょっと変わった人」というイメージを作ってしまっているのかもしれないと思いました。(そのイメージに大袈裟にフォーカスしたフィクション作品なども多くあるので、それも要因として大きいと思いますが)

ただ、その表現の強さと依頼主の思いが重なり、技術者へと実現したいことが伝わって三者の思いがカチッとはまったときに、作品は突き抜けていく、と解説のお二人はおっしゃっていて、朝から胸が熱くなりました。
デザイナー誰もが残るものを作りたい、それでも消費されていくのが商業デザインでもある、というお言葉もとても印象的でした。
また大きい声を出すことだけが強さではない、小さな声だからこそ見るものの心に届くこともある、と解説されていた、サンアド 葛西薫さんの「遅日の記」は、ぜひ手にとってみたいと思いました。


私のキャリアにとってグラフィックデザインは、見るのも作るのも学生時代を最後に疎遠になっている遠い親戚のようだったのですが、本質に問いかける、価値を見出す、それを目に見える(手に取れる)形にする、というのは、WEBやサービスのデザインでも同じで、グラフィックデザインで重要とされる「表現を通すことの熱量」は、サービスデザインの「より良いユーザー体験を追求する熱量」に通じるものもあり、このギャラリーツアーを通して、あらためてデザインって素敵だな、デザインの仕事に選んでよかったなと素直に感じる、そんな朝のギャラリーツアーでした。


朝のギャラリーツアーは1日限りでしたが、「日本のグラフィックデザイン2018」は、7/31(火)まで開催中です。
まだの方もリピートの方も是非。

ちなみに8/5〜はキッズウィーク!
ワークショップ盛りだくさんで楽しそう。子供っていいなー。