見出し画像

古典ヘブライ語の世界

ヘブライ語と一口に言っても、古典ヘブライ語と現代ヘブライ語とに大きく分けられます。前者はさらに3つの大きな時代区分が可能ですが、ここでは敢えて区分せずに古典ヘブライ語とし、現代ヘブライ語とは異なるものとして、その世界に魅了された個人的直接体験をご紹介します。

本題に入る前に、現代ヘブライ語について一言。現代ヘブライ語と古典ヘブライ語の関係は、他の民族語の古典ごと現代語の関係とは本質的に異なっています。なぜなら、現代ヘブライ語とは古典ヘブライ語が有機的に発展して到達した現代の段階ではなく、いわば人工的に造られた言語だからです。現代ヘブライ語が「復活」した言語であるとする話は基本的にはイスラエル建国神話の一部だと考えてもらった方が正確です。

30年近く携わった言語研究で、一番の研究対象にしてきたのが現代ヘブライ語でした。それに先立ってヘブライ語学の博士号を取得すべくイスラエル留学をするまでは毎日2時間の独学を4年半続けました。結局、5年間の留学時代も含めるとイスラエルには合わせて約24年間住み、現代ヘブライ語を生活のあらゆる分野で使ってきたので、今でも一番楽な言語です。

とは言うものの、研究対象として個人的には少しずつ興味を失っていきました。現代イスラエル社会とその文化には自分には興味がないことに少しずつ気づいていったからです。

これに対して、古典ヘブライ語とそれで書かれた様々なユダヤ古典文献にはますます魅了されるようになっていきました。特に数年前にエルサレムでハシディズムを体系的に学ぶようになって、古典ヘブライ語で書かれたその数々の文献は今では魂の一番の栄養供給源になっています。

古典ヘブライ語で書かれたユダヤ古典文献として日本の皆さんにも一番馴染み深いのはおそらくヘブライ語聖書(いわゆる「旧約聖書」)でしょう。自分で音読をずっと続け、シナゴーグでの朗唱も何年も聞き続けてきたので、古典語とはいえ、その音を聞くと、話し言葉に近い感じで魂に響いてきます。

ヘブライ語聖書以外にも膨大な古典文献がありますが、ここでは触れないことにして、古典ヘブライ語を音読・朗唱する際の発音についてご紹介したいと思います。

聖書ヘブライ語に代表される古典ヘブライ語を学ぶ際には、日本でも現代ヘブライ語式の発音が主流になっているはずです。これは残念なことだと思いますが、現代イスラエルでもいわゆる超正統派と呼ばれるユダヤ人以外の間では、もっぱら現代ヘブライ語式の発音で音読・朗唱されるので、仕方がないことかもしれません。

ハシディズムの信奉者を含めた超正統派の間では、伝統的なアシュケナジ式の発音が古典ヘブライ語に用いられ続けています。子どもたちも、古典ヘブライ語と現代ヘブライ語をはっきりと分け、発音も使い分けています。

かく言う私自身、今から10年以上前に大学からもらった1年間の有給休暇を利用してエルサレムにある超正統派のイェシヴァで学んでから、古典ヘブライ語を音読する際には、伝統的なアシュケナジ式の発音に切り替えるようになりました。これに慣れてしまうと、ユダヤ古典文献を音読する際に現代ヘブライ語式の発音を用いるのは、お祝いの席にジーンズで行くような強い違和感を感じるようになりました。言語には文章の内容だけでなく、それを伝える音自体にも大きな意味があることを今では痛感しています。

伝統的なアシュケナジ式の発音の他にも、世界中のユダヤ共同体にはそれぞれ独自のヘブライ語の発音の伝承がありました。残念ながら、これらの発音伝承は、アシュケナジ式の発音と他のごく一部を除き、残念ながら廃れていってしまっています。

最後に、ヘブライ語聖書が伝統的なアシュケナジ式の発音、より正確にはその下位区分であるリトアニア式の発音でどう朗唱されているかを実際に聞くことができるサイトをご紹介します。これは私がエルサレムでその教えを学んだハバド派ハシディズムで用いられている発音です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?