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負けず嫌いな心に火が灯る

■「コーチとしての覚悟」は簡単な事ではない

 私は、もう一度福岡でプロ選手としてプレイをしたいという気持ちを持っていたので、プロ選手として第一線を退いていましたが、練習は100%で取り組みます。妥協は一切しません。

「何故そこまでストイックに断言出来るのか」

 それは、大阪から福岡へ帰るようになった時に、背中を押してくれた仲間や福岡レッドファルコンズ時代に応援して下さっていた方々を裏切ってしまったからです。そして、私自身もこれまで継続してきた大好きなバスケットボールを中途半端な状態で終わらせるのは絶対に嫌だったので、「絶対に揺るぎない気持ち、もう一度、福岡にプロバスケットボールチームを作りたい」と思っていたからです。

 しかし、並行してコーチという立場になり、学生の全選手を見る責任があります。あの時、曖昧な返事をしましたが、やると決めた以上は、選手の目標を達成させる努力をしなければいけません。
 2つのことを同時にやる「コーチとしての覚悟」はできるのか。まだ、簡単に一歩を踏み出す勇気を持っていませんでした。

■F大W葉高校女子バスケットボールI田先生

 そんなある時、F大W葉高校(旧KJ高校)と練習試合の機会がありました。F大W葉高校は、福岡県でインターハイ、ウインターカップの常連校です。数多くの選手をWリーグに輩出していますし、その当時は、元デンソーアイリスに所属していたO庭久美子選手が3年生でした。
 高校スーパースター級の選手が居ても「高校生相手に敗戦するはずがない!」と、これまで大学生が高校生に敗戦することなど見たことがなかったので、当時は、当たり前のようにそう思っていました。

 しかし、試合が始まると1クォターからリードをされる展開です。「えっ。高校生に負けるのか。選手達は悔しくないのか」と思って激怒する私がいます。

 前半終わって15点リードされる展開です。「まさか大学生が高校生に負けるのか」後半戦も点差が縮まることなく、20点差をつけられて敗戦。試合内容も最後に大学生の意地を見せる場もなく、完璧な敗戦です。

 試合後、私は選手達に「まさか負けるとは思ってもいなかった。高校生に負けることは悔しくないのか?」と怒鳴り散らかし帰ってしまいました。

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■「コーチとしての覚悟」が出来上がる

 試合後、I田先生のところへ挨拶に行き、教官室でコーヒーを飲みながらI田先生が、

「お前本気じゃないちゃろ?真剣に教えてないから、お前の姿が全ての選手達の姿となって出とる。もっと真剣にやらんとコーチなんて無理ったい」と言われ、悔しさ、もどかしさ、歯痒さ、心を叩き割られたような感覚でした。試合中に、私が怒鳴り散らかした選手達。何も悪くない。選手達は手を抜くことなく、精一杯やっていたのだから。

 またやってしまいました。

「自分の中途半端な心を選手に押し付けて」自分のコーチングに目を向けず、選手へ矛先を変えてしまっている私がいました。

 しかし、最後は、I田先生から背中を押されたような感覚で、私の心に「負けず嫌い」な心に火が灯り、「コーチとしての覚悟」が出来上がったのでした。

■練習への取り組み方「心を整える」

 目標を達成させるためには、まずチームの基盤となる土台作りです。これは、前回も触れましたが表面的な戦術や個々の能力だけに頼るような戦いではなく、日々の練習へ参加するための個々の意識改革、日々の日常生活の過ごし方を改善させる「チームの基盤」を作るためのチームルールが必要だと思いました。

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 例えば、練習前に早くコートに来て掃除をすることや脱いだ靴を並べることなど小さな事を疎かにしないことです。

 これは、「心を整えてやる練習と心を整えずにやる練習」では、全く異なる結果が出ると思っていたからです。しかし、さすが伝統ある大学女子チームです。これまでの前コーチの指導方針なのか分かりませんが、選手達は、練習前に掃除をして、練習への準備も本当に素晴らしかったです。特に一年生は、1時間以上前に集合して、全ての準備を念入りにします。

 また、私から指摘をする前に、外靴の脱いだ靴を既に並べています。全く隙がなく、きっちりと練習への準備が整っています。

 そして、この日から毎日、練習内容、練習で分からないことなどをノートに書いてもらい、翌日の練習前までに提出をして貰いました。これは、日々の練習を振り返ることや私が伝えていることが正確に伝わっているのか、練習内容を理解しているのか、また、直接言えない不満などを聞くためでした。さらに、ノートには必ず起床時間、就寝時間などの日常生活を把握するために書いて貰いました。

■全ては「チームが掲げる目標への達成感を味わって欲しい」ため

 さて、私の中で『コーチとしての覚悟』ができて、これからがスタートだ!という気持ちになりました。どんな風にこのチームを作るのかです。コーチとしてのフィロソフィーが必要と思っていました。

 NBAの名コーチであるフィルジャクソンは、

「私は勝利に執着することは、非生産的だと知っている。特に、人間の感情を抑えられなくなる時はなおならだ。勝利にこだわるのは、敗者のゲームである。つまり、私が望む最善は、勝つために考え得る最高の状態を作り上げた上で、結果をあるがままに任せることである」。

 と、言及しています。

 私自身、どんな試合でも勝利すれば、相手を見下したような気持ちや何をしていても許されるという事ではないと分かっています。

「相手を尊重することを忘れない。」

 これは、私が現役時代の時からいつもそう思っていて、敗戦したとしても「一時的に悲観的な気持ちになったとしても、どのような過程を過ごし、どのような準備をしたのかが重要」と思っていましたので、「勝利が目的ではない」勝利至上主義の指導は考えてもいませんでした。

 もちろん、勝つ喜びを味わうこと、達成感を味わって、人間として成長して貰いたいというフィロソフィーを掲げてやるように決めたのです。

 しかし、「コーチとしての覚悟」をして、1から本気でチームを見るようになってから、今まで視界に入ってこなかったことが見えるようになり、色々なことが明らかになってきたのです。

続きは、後日アップします。

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次回は、古い体制の『上下関係』に依存されていたチーム内組織の改革について書いていきたいと思います。

引用及び参考文献
・フィルジャクソン(2014)『勝利の真髄』(株)スタジオ タック クリエイティブ、東京

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