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コーチとしての覚悟

■F大学名物練習『油山ランニング』

最初からコーチングとは少し余談ですが笑

 F大学男子バスケットボール部のことについて少し触れたいと思います。当時インカレ出場57回、伝統あるチームです。

 この時には、今年から京都ハンナリーズでプレイをするI谷選手(大学3年生)、バンビシャス奈良でプレイをするK田選手(大学1年生)が在籍していました。

 指導者は、当時65歳を過ぎた名将M山泰夫先生。

「バスケットボールは、足腰ば鍛えることだ。それだけで九州ば勝てると。」by M山泰夫先生

 次の日、私は、まだプロ選手としての道を諦めていなかったので、男子バスケットボール部と一緒にコンディショニングを整えるために練習へ参加をさせて頂きました。

 昨日、女子バスケットボール部員への挨拶が終わった後、男子バスケットボール部の学生コーチをしていたW田くんが、「川面さん、男子部員は、明日の朝9時から走りますので、外用のランニングシューズを持ってきて下さい」と言われ、着替えて待機をしていました。

 続々と男子部員が集まり、部室で着替え終わった学生が、重い空気のまま体育館の外へ歩いて行きます。私は、部員の一人に「どこを走るの?」と聞くと「山っすよ!あそこです!はぁ〜」と嫌そうに油山の方角を指します。

「えっ?油山?」

 油山は、福岡市内を一望できる夜景スポットで有名です。標高は597mとそんなに高くはありませんが、F大学から走って行く距離と山の麓から展望台に登るまでの距離を考えると、中々のヘビーロードです。

 この時は、3月中旬です。学生は、1月末の後期試験が終わり、ほとんど毎日と言って良いほど走り続けていると言っていたので、正直なところ度肝を抜かれました。そして、体育館から山頂までの往復約1時間半、そして、帰ってきたら体育館で自重トレーニングとシューティング200本を入れ終わると、朝の練習は終了します。

「朝からなんてハードで過酷な練習メニューなのかと思うと同時に、学生の体力はハンパない!!」と思っていました。もちろん、その日の午後16時から練習です。

「バスケットボールは足腰ば鍛えることだ。それだけで九州ば勝てると。」とはこのことか笑笑。

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余談でした笑

■早くも大失態

 男子部員との練習後、女子部員は12時から練習です。さて、ここから私のコーチングがスタートしますが、早くもやってしまいました。

 どういうことかと言うと、多くの指導者は、まず最初にチームを持ってやることは「全部員を集めてミーティング」をするでしょう。

 これは、コーチ自身の指導方針やチームの目的や目標、そしてスローガンなどを決めてスタートをすることが当たり前だと思います。会社でもそうです。社長の経営理念、方針を部下に伝え、そこから仕事に取り組むものです。

 私は、これを怠ってしまったのです。ミーティングをする前に、練習をさせてスクリイメージをさせてしまったのです。大失態です。

■チームとして「変えるべきもの、変えるべきではないもの」を見分ける

 しかし、あの時の私のコーチングの考え方としては、いつも通りのメンバーでスクリイメージをしてもらいました。何故スクリイメージをしようかと思った理由として、全体像を捉えてやる方法を全習法と呼びますが、試合をして全体的なイメージを把握し、チームとしての「変えるべきもの、変えるべきではないもの、チームの強み弱み、選手の特長など」を捉えて、それぞれの部分的なものを取り出して、どのように分解して練習に落とし込むのか、また同時に「チームの目的や目標を考えるため」などの材料が欲しかったからでした。

 一方、指導者の中には、これまでの練習内容を全て変えて、自身のコーチングスタイル、指導方針などを貫き通し、1から練習メニューの組み立てを変える人もいると思います。

 しかし、私は「良いものは残し、悪いものは試合で使えるように修正したい」と思っていましたので、全てを私が描いているコーチングでこれまでの全ての方法を否定せずに取り入れる事を考えていました。

■M-T-Mメソッド

 しかし、今考えれば最初のミーティングを除き、これはこれで良かったのかと思います。

 近年、コーチング研修やコーチライセンス講習会等に参加をさせて頂いてますが、M-T-Mメソッド(マッチ→トレーニング→マッチ)の方法を良く聞くことがあります。

 このやり方は、ERUTLUC代表の鈴木良和さんも推奨するように、M-T-Mメソッドにすることで、分習法で取り上げる内容が試合の中でどのように活かされるのか、どんな場面で使う技術なのかを明確にイメージすることができるので、効果的な組み立てとして幅広く認知されていると述べています。

■自信がない学生の発言

 そして、そのスクリイメージを視察して率直な感想は、「一生懸命に声を出してやっている、誰一人と手を抜いていない、彼女達はどんなチームを目指しているのだろう、どんなバスケットボールを展開していきたいのだろうか」と思い、練習終了後、4年生7名に残ってもらい、ミーティングをしました。

「みんな上手だねー。今年の目標は何?また、このチームの目的は何?」と尋ねたところ、

「私達は、九州1部ですが、今年は不作の年です。昨年までは、スーパースターが居たのでチームは崩れる事なく良い方向に行っていたと思います。今年は、スターが一人も居ないので入替戦に行くと思います。目標は、インカレに出場をする事ですが、ここ数年インカレに出場出来ていませんので、実際のところ厳しいです。目的は、人として自律する事ですかね・・。」と、

とても謙虚というか曖昧というか、悲観的というか、まあ何とも自信がない発言でした。

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■はじめての練習試合

 九州内の他大学とどのくらい差があるのか、この時、他大学の状況も把握できていなかったので、次に練習試合を組みました。

 1週間後、コーチに就任してはじめての練習試合です。対戦相手は、2部2位のF女学院大学。当時のF大学女子バスケットボール部は1部5位で、負けるはずがない相手です。試合は、均衡した一進一退の攻防が続いていましたが、残り30秒で2点ビハインドを許す展開。ここで、私はタイムアウトを要求。私が選手時代に経験したセットプレイを試みたが、ある選手が痛恨のパスミスをしてしまい、そのまま相手にボールをキープされて、まさかの敗戦をしてしまったのです。

 練習試合とはいえ敗戦するはずがない相手。敗戦した要因は何か。一晩中考えていました。

「選手達の何が悪かったのか、試合経験の無さなのか、練習環境の悪さなのか、選手の質の悪さなのか、選手のコンディショニングが良くなかったのか、得点源が居ないからなのか」など、今思えば大変恥ずかしいですが、全て悪いところを自分のコーチングのやり方、練習メニューの組み立て方、メンバー構成、選手起用の方法などに方向を向けるのではなく、選手や環境の方向にしていた私がいたのです。

 地方チームからインカレへ出場するためには何をやらなければならないのか。

 目標の掲げ方、目的への意識、練習内容の見直し、練習環境を整えることなど色々とやる事は多くあります。

 しかし、まず最初にやるべき事は、日々の練習へ参加するための個々の意識改革、日々の日常生活の過ごし方を改善させる「チームの基盤」を作ることが大切だと分かっていたにも関わらず、

私の中で「コーチとしての覚悟」がなかった事で、このような結果に繋がったと思ったのです。

続きは、後日アップします。

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次回は、「コーチとしての覚悟」の続きを書きたいと思います。

引用及び参考文献

・原晋(2016)『人を育て組織を鍛え成功を呼び込む勝利の哲学』ぴあ株式会社、東京

・鈴木良和(2017)『バスケットボールの教科書4』ベースボールマガジン社、東京


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