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ごくうが行く:ねえやは15で嫁に行き

画像:三木露風「赤とんぼ」(1937)『日本童謡全集』1、日本蓄音器商會。

「♫夕焼け小焼けの赤とんぼ♫」と頭の中で歌いながらごくうの散歩に出かける。この歌を歌いながら散歩に出かけたのは、トンボの別名「あきつ」(古くは「あきづ」)を知ったからである。赤とんぼはよく口ずさむ歌である。

「ねえやは15で嫁に行き」は健気な少女の姿を思い起こす。昔は15で嫁に行くのはそんなに珍しいことではなかっただろう。この頃の平均余命は20才くらいだろう。そんな昔ではないはずである。

ごくうは坂を上がるコースを選んだ。仕事の切れ目に、いつもよりも早く散歩に出かけた。中学校のグランドを回り、旧山陽道に沿って歩いて行く。中学生の姿が遠くに見える。もう2年生の下校時間を過ぎている。

ナンパチワワの家を過ぎ、ジョギング女子によくで会う場所を過ぎ、交差点に出る。交差点を渡り、散歩で暑くなったので、トレーナーを脱ぎたくなった。脱いでいると、帰宅中の中学生の女の子が近づいてきた。ごくうを見ている。ごくうはリードを離しても先に行こうとはせず、待っている。

中学生はごくうが気になるのか、じっと見つめている。トレーナーを脱ぎ終えて、

「撫でてみる?」

と尋ねると、中学生の女の子は撫でたかったのだろう

「いいんですか」

ごくうと同じ目線になり、ごくうを撫でる。ごくうも応じる。3,4回撫でると、ごくうは先を急ぎたいのか、向きを変えたそうに後ろを振り返る。中学生の女の子は満足したのか、

「ありがとうございます」

家路に向かう。しばらくして、振り返ると、信号待ちの中学生も振り返っている。

「そうか、15才くらいだな」

自然と、「♫夕焼け小焼けの赤とんぼ♫」と繰り返す。

ごくうが信号を心待ちにして渡ろうとする。まだ赤だ。信号の向こうには挨拶をしない高齢の女性が近づいてくる。ごくうは信号の「青」が分かる。急いで渡る。ちょうど高齢の女性と交差点を渡った所で出会った。高齢の女性は心持ち会釈する。

高齢の女性を追うようにごくうは散歩する。女性は西に向かってシャキシャキと歩いて行く。西の空は夕焼けになっている。歩いて行くに連れ、たなびく雲も赤さが増していく。

高齢の女性は結婚し、娘も誕生し、もう独り立ちしている。何歳で結婚したのだろう。あの中学生もいつ結婚するのだろう。夕焼けは赤さの盛りを過ぎたのか、次第に赤瑪瑙色が濃いさを増していく。