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ごくうが行く:ステッキのシルバー

画像:https://jiichanbaachan.com/life/1743 から。

杖ではない。ステッキと言うにふさわしい身なりである。歩くには少し安定感あるいはしっかりさに欠ける。しかし、スーツ風の服を身につけており、背筋は伸び、優しい雰囲気ながら凜とする感じが伝わってくる。ごくうの散歩時に会うのは2回目である。

交差点で高校生と思われる2人が立ち話している。1人は自転車に跨がり、1人は自転車から降り、話しに夢中になっている。二人はごくうに目を移したが、再び話し始める。ごくうがマーキングしながら前に進んでいくと、ステッキを支えに歩くシルバーに出会った。ごくうの歩くスピードが速く、通り過ぎようとするが、「可愛がって貰う」のがごくうの役どころ。

「おっ、かわいいね。」

ごくうは素っ気ないのも一つの武器。一言貰うと、散歩を急ぐ。ステッキのシルバーは苦笑いしながら見送っている。

ごくうは用が足せない、ウロウロと彷徨き回る。信号を渡ったと思うと、貯水池を小回りしてまた信号の所に出た。ちょうどステッキのシルバーが信号のところで曲がるのに遭遇した。ごくうは行く方向を迷っている。ステッキのシルバーはごくうを撫でたいのか、ごくうに腰を屈めながら近づく。ごくうも振り返り、顔を向ける。

「おー、かわいいのう。」

ステッキのシルバーはステッキを持ち替えてごくうを撫でる。ごくうも撫でて貰うのを楽しんでいる。ステッキのシルバーはステッキを持ち替えると、

「わしゃー、警察犬を飼っとたいね。」

「あー、そうなんですね。」

ごくうに関心を持ち、わざわざ可愛がる行為が懐かしさを呼び起こしている。

「ワンちゃん、大きかったんですね。」

「そう、一緒に寝よった。」

声は一段と大きくなり、空いた手で大きく半円を描くようにしながら、ベッドか布団にイヌと一緒に寝始めるときの仕草をする。懐かしさが押し寄せたのだろう。表情が少し曇っている。

県道の車が途切れた。ごくうはまた道路を横断しようと向きを変えた。

「またな。・・・」

ステッキのシルバーは向きを変えて歩き出した。

ごくうは焦るように歩道を渡っていく。歩道を渡って振り返ると、ステッキのシルバーも振り返り、ステッキを軽く振った。

ごくうは焦るように歩いて行く。今日は長い散歩になりそうだ。