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この街のどこかで:上野着

大正9年国勢調査の時点で、日本の人口は約5,560万人。そのうち、農村部に住む人口は約3,900万人で、全体の約70%を占めてた。この構成比は逆転していく。農村から都市へ。

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千珠は本屋巡りも好きだ。八重洲口に「八重洲ブックセンター本店」があった。※2023年3月末一旦閉店。読みたい本を渉猟し、3冊の本を購入した。その中の1冊『北帰行』を広げて読むとはなしに、読んでいた。

電車は上野駅に差し掛かっていた。上野駅は集団就職列車(1950年代後半から)の終着駅。ニュース画面で、学生服を着た集団が列をなして降り立って行くのを目にしたことがある。彼らの姿が頭を過った。

途中で食事をしたので、もう夜はかなり更けていたが、誘われるように途中下車してしまった。

一旦、駅舎を見るために改札口を出たが、引き返し、改札口に向かおうとした。目の前12,3メートルに4人家族が向かってくる。何か急ぎ足だ。父親は男の子の手を引き、3メートル離れて母親が子供をおんぶしている。

身なりはキチンとしている。夫は白い上着にチャコールグレーのズボン。妻も「よそ行き」の服装だ。家族で東京見物に訪れたのか、(夜遅いのに)しなくてもよい詮索が頭をよぎる。

夫は行く方向を間違えたと思ったのか、途中で踵を返した。やや急ぎ足で、夫は妻を促す。妻も踵を返して夫に付いていく。やがて、家族は視界から消えていった。

千珠は上野駅を出発すると、本に目を戻した。あっという間もなく、千珠は耽溺した。降りる駅までまだ間がある。千珠は頭の中で散歩していた。