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根を詰めると花は咲かないから

生糸さんが呟く。

* * *

彼は音楽家になる夢を持っていました。

大学では音楽部に所属し、毎日練習に励んでいました。しかし、卒業時は就職活動に追われ、そのまま、卒業後は音楽とは縁遠くなっていきました。しかし、空いた時間には音楽の練習を欠かしません。

ある日、連休の合間に人気の少ない公園で、楽器を持ち上げ、演奏を始めました。今までにないクリアーな音が響き渡ります。心にどこかさわやかな風が吹いたようです。彼は、むくむくと音楽への希望が再び湧きあがってきました。

仕事の合間に、休日も惜しんで、練習に練習を重ねました。やがて、自分の才能を信じて、音楽コンテストに応募しました。彼は勢いをつけて駆け出しましたが、気が付けば、公園で日暮れ前の空を見上げていました。彼は予選で敗退してしまったのです。

彼は自分が何をしようとしていたのか、どうしてこうなってしまったのか、分からなくなりました。公園から切れ目なく延々と続く道を見ながら、自分の人生の軌跡のように見えてきました。彼は何も分からず、彷徨うように立ちすくんでしまいました。

それを見ていたお天道様は、太陽を雲で覆って優しい風を吹かせて、彼に休むように励ましました。

根を詰めると花は咲かないからと言っています。