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温石(おんじゃく)のごとく

*温石=蛇紋岩など石を温めて、布や綿に包み、身体を温めるのに使う。平安時代から利用されたという。

斎藤象三、蝉形平次、源義牛の三人は、三人分の湯たんぽをこしらえて、煎餅布団の中へ足を突っ込み、寒い寒いと首をすくめ、春に向かっていく。

60+年前、家事手伝いに八百屋の店番を日課としていた。春、夏、秋、冬も厭わない。秋が深まると、火鉢をだす。丸さは60センチを越え、高さも60センチを越えている。

鉢の上は丸くくり抜かれ、12センチ下に、炭を燃えさせ、灰を炭の周囲に被せる。炭はいつの間にかオガライトに代わっていった。それほど熱があるわけではなく、冬でも昼時、ガラス戸は立てられていない。夜でも一部分が客の出入りのために開かれている。冷えた空気が時に襲ってくる。

鉢の上から下に流線型のように窄み、下の直径は20センチ+だったろうか。窄んだ所を両足で挟み、暖を両足の太ももから取っていた。

かじかみがちの両手を、時に擦りながら、火鉢の上に広げた教科書を丹念に読む。時に、お客さんに応対しながら、再び教科書に目を落とす。両足に暖が戻ってくる。

冬が来る度に、火鉢を出し、暖を取りながら、教科書を読み、英語研究を読む。そんな冬の日を送ったことを、斎藤象三、蝉形平次、源義牛の三人は思い出させた。道明寺も煎茶もなかったが。