ごくうが行く:おほろ月・テツと一緒

妻は歯が欠けてしまった。こんな時に。週3病院に行くことになる。病院に行くたびに、ごくうの散歩が遅くなる。もう月が出ている。空全体が雲ではなく、靄状態で薄く覆っている。月もおぼろ月ではなくて、薄い靄の向こうで輝いているようだ。今夜は、月の光が薄く、「おほろ月」状態だ。

ごくうは「そんなこと関係ない」とばかりに、好き放題に散歩コースを選ぶ。もう遅いので、誰に会うこともない。と思ったが、何か「奇声」が聞こえる。昼間通行料調査をやっていた。その場所から聞こえてくる。見ると、モコちゃんがその側を通っている。モコちゃんは平気らしい。ママと一緒に側を通っている。

モコちゃんが止まり、道路越しにごくうを見ている。ごくうも気がついてモコちゃんを見ている。ごくうは渡りたいらしい。しかし、そこで再び奇声が聞こえた。ごくうはビビり、踵を返すとさっさと離れてしまった。モコちゃんは残念そう。ママに強引に引っ張られている。

そんなことお構いなし、ごくうはさっさと離れていく。こんな時、ごくうはいつものコースをいつものように歩くとは限らない。道路を渡ったところで、時々出会う柴犬に出会った。ごくうは柴犬と飼い主の両方が好きである。互いに挨拶する。ルーティンを果たすように飼い主もごくうを可愛がる。

柴犬はもう高齢のようだ。毛にも艶がない。飼い主にごくうの名前を覚えて貰っている。あの柴犬はなんという名前だろう。

柴犬と別れて、ごくうはモコちゃんの方に行き始めた。しかし、再び奇声が聞こえたので、途中で方向転換。いつものコースに帰ると、さっさと歩く。家に帰る方向に進んでいると、コンビニの前で、反対側から柴犬が帰ってきた。

今別れたばかりなのに、柴犬の飼い主は、いつもと同じように、ごくうを撫で可愛がる。ごくうもさっき会ったばかりなのに、いつものように可愛がられている。気になっていた名前を聞いた。

「お名前は?」

「テツ、テツだよ。」

「もう13才なんよ」

「今夜は遅くなったけん、散歩、止めようと思っちょったじゃけど」

柴犬に眼差しを向けて、

「目を見ると、訴えちょるんよ」

柴犬の目を想像できる。犬の訴える目。

「そうですよね。」

「じゃやけぇ、散歩に出たんよ」

それを聞いて、思わず同意した。

柴犬に向かって

「良かったね、散歩できて」

柴犬・テツは、ごくうにアクセスしようとウロウロする。ごくうは飼い主に向かってウロウロする。

「またね」

お互いに挨拶し分かれて行く。おほろ月が少し明るさを増しているようだ。