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このまちのどこかで:鰯雲を背にして中年を知る

「キング、ダム公園に散歩に行くぞ」

一声聞けば、腰を捻りながら「うー,うー,うー」と呼応する。この喜びをなんとしょう。秋になり、10月はじめ。久しぶりに、残業せず、定刻に家に帰る。

ダム公園について、いつもの場所に駐車する。キングもいつものように探検。ちょっと急いている。探検を終わると、ダム公園の散歩を待ち焦がれていたのか、一気に走り出した。瞬く間にダムの堰の階段を駆け上がり、上に着くと、横に走り抜ける。堰を降りながら、途中で横に思い切り、反対側に走り抜けていく。

(ウン)

キングは堰の中程まで戻ると、止まり、咳き込み始めた。ゼーゼー気味に、ケホ、ケホと数度繰り返した。背中が少し丸みを帯びている。キングはキツいのか、動かない。

妻に「キングも中年を過ぎそうだ」と伝えると、同意する微笑みが毀れている。

カメラを構えた。キングの背の向こうに鰯雲が広がっている。鱗のように規則的に並んでいる。