ごくうが行く:青い乙女、ジュニアカップル、高齢女性
ごくうが下に下りる散歩コースを取って、いつものように慣れたマーキングをする。交差点に来たとき、寡黙な高齢女子が来る。高齢女子とごくうの散歩コースは重なるところが多い。ごくうはいつもの橋でマーキング、高齢女子が左に舵を切った。ごくうは後を追うように進む。
ごくうは高齢女子の後をフォローするように歩いて行く。次の交差点に差し掛かったとき、自転車通学の女子高生が二人近づいてくる。ごくうを見つけると、一人が「ちっちゃ」と短く発音する。もう一人が「かわいいー」と応ずる。二人の女子高生はそのまま勢いよく通り過ぎていった。まるで、青い山脈の乙女達だ。
ごくうはコースを違えることなく、信号を渡る。郵便局を左に進んで行くと、橋の側から若いカップルが出て来ていた。ジュニアカップルの女子はごくうを見るなり、「かわいいっ、かわいいっ」と連発する。ごくうがよくマーキングする場所だ。女子にかわいいと言われてもマーキングが忙しい。女子はいらだつように「かわいい」と一段と声が大きくなった。
「ごくう、お呼びだよ。お姉さんにご挨拶だよ」
ごくうは時に素直である。言われて、女子に笑顔で向かって行く。女子は蹲踞し、ごくうを迎え入れ、ごくうを撫で回す。カップル男子はその様子を見つめている。ごくうは挨拶が済んだと思ったのか、踵を返す。女子は男子に「かわいい」と同意を求めている。
用が済めば、ごくうは自分のコースに向かう。お大師堂を回り、おっと止まってしまった。止まって見上げる。(だっこ)、と目が言っている。抱っこして黙々と家路に帰る。
さっき別れた高齢女子が周回して帰って来た。
「また、抱っこされちょる」
呆れるような口癖で通り過ぎる。
いつぞやは出合って間もなくして抱っこしていると、
「もう抱っこされちょる」
またいつぞやは出合うと、
「やっぱり抱っこされちょる」
最近出合ったときには、
「今日は抱っこされるんかいねぇ~」
高齢女子語録が伸びてくる。
抱っこのまま、ごくうが家に帰ると、お決まりの作業。四肢を洗い、口を漱ぎ、歯を磨き、身体を拭けば、居間に猛ダッシュ、ガムが飛んでくる。ガムが跳ねれば、獲物を得たように飛びつくが、ガムが跳ねなければ、もう一度と、要求する。自分の思うようにならないときには、ガムが再び投げられる。