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-櫓さす音-

まだ夜は空けていない
東の空がほのかに白みを帯びてきている
その白みは朝もやを染め始めている
朝もやが広がっていく

朝もやの漂い伝わる櫓のきしみ
漕ぎ手は晩老なれど清冽
綾藺笠は揺れず ※あやいがさ
国元に急ぎ帰るのか
背筋は伸び
逸る気持ちが朝もやに張り和み

櫓の軋みがひびきつつ細くなる

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東海道を上る。急ぎではない。
宿場に着くと、夕刻の船止めにあう。
客が多すぎたという。
船頭が次々と引き揚げていく。
広がる葦の裾に客が数人取り残されている。
綾藺笠が隠すように嘆息し、西を見つめる。

早い朝方、船頭と客のひそやかな会話に目が覚める。
遊び疲れた眠気眼に朝もやが広がる。

*宗祇『水無瀬三吟何人百韻』1488年(長享2年)。※宗祇(そうぎ)、肖柏(しょうはく)、宗長(そうちょう)による三吟。三人の連歌から、「舟さす音もしるきあけがた」微かな記憶を辿って行きついた。これだった。遠い昔、読んで記憶にこびり付き、相模川・「戸田の渡し」(厚木市戸田)で思い出し、頭の中で揺れていた。

*映画「ある船頭の話」。