ごくうが行く:ホタルの季節の終わり
ごくうは車が苦手だ。車に乗せようとすると、いつもの散歩道の方向にリードを引っ張る。顔にイヤイヤ感が出ている。
「車はイヤだ。散歩がいい。」
ごくうに近寄り、抱き上げる。ごくうは観念顔も出さず、ふてくされる。
「ホタルを見に行くんだよ。」
ごくうを助手席に座布団を敷いて乗せる。諦めたのか、ママが後ろの座席に座るのを気にしながら、運転席に身体を向ける。
今年はいつもの場所にはホタルが少ない。上流に行ってみると、そこは地域のホタル名所になっているのにふさわしく、ホタルが飛び交っている。
ごくうがここに来るのは2度目で、マーキングに余念が無い。
「おにいちゃん、今年も無理だったね。」
子供はできれば、ホタルを見たい。しかし、ホタルの時期は繁忙期と重なり、なかなか帰省できない。
子どもが蛍を好きで、毎年、蛍ニュースを届けている。コロナになる1年前、6月下旬に入ろうかという頃、忙しさもほぼ終わり、帰省してきた。
「ホタルの時期には遅いけれど、行ってみる?」
聞いてみた。
「ごくう、おにいちゃんはホタルを見に行くんだって。」
ごくうは、案の定、車に乗るのは尻込みする。
ホタルのいるいつもの川に着き、車の待避できるところにおいて、ごくうも連れて行く。自動車を降りると、ごくうの足は軽い。おにいちゃんと一緒にスタスタとホタルの場所に。
「やはりいないなー。」
ごくうはいつものようにマーキング。
諦め掛けていたとき、1匹のホタルが川に沿って飛んで来た。消え入りそうだが、優しげな光を点滅させている。
「あっ、ホタルが・・・」
おにいちゃんの希望に応えるかのように、ホタルは残像を残して、川の湾曲に沿いながら飛び去っていった。
帰りの助手席は、ごくうがおにいちゃんの膝の上。ごくうは嫌いな車も忘れているように寛いでいる。