悪ガキ小太朗の動揺

*これは実話を含みません。配役を決めて、キャラを想定しながら、ストーリー展開します。

小太朗は悪ガキだった。小学校2年生。広津が同じクラスだった。広津は可愛く、皆から慕われていた。頭も良く、先生も広津には一目を置いていた。小太朗が登下校時、並み木で遊んでいると、広津によく窘められていた。

その日は、小太朗が通学路を離れて寄り道をしていた。クラスに着いてみると、広津の周りに男の子も女の子も集まっている。皆は口々に「かわいい」「それいいね」囃し立てていた。もう授業が始まる時間が迫っていた。

小太朗は割って入った。広津は新しい筆入れを持ってきていた。カラフルだ。女の子が好きそうな絵柄だった。

割って入った小太朗を女の子が制してきた。「ダメでしょ」横から男の子が「割り込むなよ」と制してきた。

「なんだよ」小太朗は広津の筆箱を机の上で払い除けた。八方に散らばる筆箱の中身。広津はおこるような、いかるような、寂しげで、情けなさそうに表情を見せている。今にも泣きそうだ。

入り口の戸が開いた。先生がクラスの雰囲気を一気に感じる。はたと気がついた先生は近寄ってきた。

広津の目から涙が溢れている。皆は緊張して立ち尽くしている。小太朗も困惑している。涙を必死に堪えている小太朗を見て、先生が側にしゃがみ、筆箱の中身を拾いながら、広津を慰めようとしている。小太朗には、何かスローモーションのように見える。

筆箱の中身を拾い終えた先生は小太朗を見た。先生は、怒ろうと思って小太朗を見た。はたと悟った。先生は日頃から小太朗と広津の様子を観察していた。先生は立ち上がり、「小太朗、廊下に立ってなさい」厳しいが、声の底に思いやりの響きがあった。小太朗は自然に溢れてくる涙を右腕で拭いながら廊下に向かった。

そんなことがあってからも、小太朗の悪ガキは引っ込まないまま、高学年になっていった。もう小学校の5年生になっていた。

小太朗には姉がいた。中学1年生だ。よく喧嘩する。時に、取っ組み合いの喧嘩になる。小太朗は、事あるごとに、姉に突っかかる。姉も何かにつけて小太朗に突っかかる。母は二人を見ていて強く叱る訳でもない。(そのうち、収まるわ)

小太朗は野球が好きだ。皆と草野球をよくしている。河川敷の土手に座り、物憂げに草野球の練習を見ている。小太朗は視線を感じて気がついた。少女は小太朗よりも、姉よりも大きい。(中学校3年生か)

小太朗はどことなく気になった。ゴロが飛んできた。思わずスルーしてしまった。皆から怒号が飛ぶ。悪ガキ小太朗は持っていたグラブを叩きつける。皆はあまり取り合わない。(いつもの悪ガキだな)疎外感を感じた小太朗は土手を駆け上がる。

少女のそばを駆け上がるとき、少女が小太朗の足を掛けた。思わず、小寿朗はつんのめる。思わず、「何すんだよ」と叫ぶ。
「野球、続けろよ」
男訛りの言葉を使う。少女を目の前にして、小太朗はきつい表情でにらみつける。「さぁ」少女は促す。悪ガキを消している小太朗がすごすごとコートに戻り、自分の守備につく。

野球を終えて帰るとき、少女はもうすでにいなかった。小太朗は心を欠いたように感じている。

少女は家に帰ると、母親のヒステリックが治まっていた。強いヒステリックではないが、気に入らないことがあると、父や少女にあたることがある。少女も反抗期を向かえていた。父は少女の反抗期を見守るようにやり過ごしていた。母親は少女の反抗期をヒステリックで返していた。少女はいたたまれなくなると、家を飛び出ていた。河川敷の土手で気持ちを和らげ、落ち着かそうとしていた。

ある日、少女は母のヒステリックを境に父にも反抗していた。やり返すこともできなくなった少女は河川敷に走って行った。草野球が練習試合をしていた。試合が緊迫していた。小太朗がバッターボックに立っている。皆は固唾を飲んで見守っている。少女もすぐに引き込まれていった。

2ストライク2ボール、小太朗も追い込まれていた。ピッチャーが5球目を投げたとき、小太朗の脳裏に広津がフラッシュバックした。玉は綺麗にキャッチャーのミットに収まった。あえなく、小太朗のチームは敗れた。小太朗だけの所為ではなかったが、小太朗は傷心した。

「おい、小太朗、かえるぞ」
小太朗は突っ立つたまま、放心している。皆は道具を纏め帰って行った。やがて小太朗も力なく帰って行く。土手まで来ると、少女が待っているかのように立っている。少女は親とやり合った動揺が収まっている。小太朗は心を元に戻せないまま、少女を見上げる。

少女が小太朗を慰めようとして近づき、自然と小太朗を包むように抱き寄せた。少女が包むように小太朗を柔らかく抱きしめる。

(お母さんとも違う)
(姉さんとも違う)
(・・・)

時が流れた。二人は手を繋いで帰っていく。やがて、二人の手が離れ、互いの家に帰っていった。

少女は反抗期のやり過ごし方を覚えていた。小太朗は相変わらず悪ガキのようだったが、姉には優しくなった。

それから1年が経ち、小太朗は河川敷の側を少女が通っていく姿を見た。少女はもう華やぐ乙女に転じかけていた。小太朗は記憶の中にある少女の雰囲気を時に思い出すことがある。


Fin