ごくうが行く:新月に一番星

*10月9日の夕方:月齢(月齢 2.7、大潮)

夕方5時過ぎになると、ごくうの視線を感じる。促されるように、散歩に出かける。今日は上のコースを選んだ。

道を横断して来るご婦人に出会った。ごくうはご婦人の後を追うように歩く。ご婦人はいつも可愛がってくれるおばさんのお店に入っていく。ごくうも後を着いてお店に入る。

「あれっ・・・」

ごくうが慣れたように入っていくので、ご婦人は不思議がったが、おばさんが動物好きだということを知っているようだ。一緒に店のおばさんを待っている。おばさんが出てくると、愛嬌を振りまく。ご婦人は

「ああ、やはり。」

納得している。

ナンパチワワのさくらちゃんへのコースを選んで歩いていると、さくらちゃんのママに出会った。何か用事があり、出かけていたみたいだ。一緒に歩いてお家に近づくとリードに繋がれたさくらちゃんに吠えられた。ごくうは吠えられても無表情だ。

さくらちゃんのママと分かれて、公民館への下り坂を下りていく。いつものようにマーキングしながら歩いて行くが、

「狙いは新しい団地だな」

ごくうのお気に入りなのだろう。団地に上がる道は山際で寄り道が多い。団地への上がりきる手前で先日会った柴犬が見えた。ごくうをが上がってくるのを見つけると、引き返してしまった。

少し前から団地を横切るのは抵抗があった。この機会に団地を横切らないようにしょうと、

「ごくう、ユーターンしょう。帰るよ。」

ごくうは坂の途中で立ち止まり、様子を窺っている。もう一度「ユーターン」と声かけると、諦めたのか、坂を下りてきた。

ごくうはお大師堂コースに向かって行く。今は妻が打ち身で一緒に来られない。一緒に来ていたら、喜ぶのに、と思いながら、淡々と歩いて行く。お大師堂を過ぎると、歩道の向こう側から一人のシルバーとはいえない女性が歩いてくる。散歩のようだ。

歩道が広いわけではないので、車が来ないのを確認して道を譲るが、ごくうは歩道を歩く。挨拶しながら、女性はごくうを見ながら擦れ違うかと思った。ごくうは女性の方向に向きを変えると同時に、女性も向きを変えた。ごくうが女性に近づき愛想を振りまく。

「触っていいですか。」

といいながら、ごくうと同じ目線になる。

「かわいいですね。」

女性はごくうを撫でながら、女性の撫で方はどこか優しげだ。

「この3月にワンちゃんが死んだんですよ。」

女性は、思いやるように、懐かしむように、撫でる。女性はごくうの尻尾が短いのに気がつき、

「まあ、かわいい。尻尾が短いんですね。」

「ええ、柴犬とパピヨンのハーフなんですよ。」

「そうなんだ。」

女性がごくうの短い尻尾をなぞりながら、

「可愛いわね~。」

と繰り返す。

ひとしきり、ごくうを撫でた女性は立ち上がり、

「ありがとうございました。」

お礼の言葉を残して散歩に戻る。女性が歩き去って行く西空は、赤い夕焼けに染まっている。もう新月が輝き始めていた。そのやや右上に、一番星が輝き始めていた。向きを変え、東に向かって歩き始めると、右上には二番星が輝き始めていた。