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金子みすゞ ばあやのお話

標題画像:「上の森 シハ|Uenomori Shiha:受け継がれたものは、何かあるはず。相手が忘れても。」から。

ばあやのお話

ばあやはあれきり話さない、
あのおはなしは好きだのに。

「もうきいたよ」といったとき、
ずいぶんさびしい顔してた。

ばあやの瞳には、草山の、
野茨のはなが映つてた。

あのおはなしがなつかしい、
もしも話してくれるなら、
五度も、十度も、おとなしく、
だまって聞いていようもの。

ーー詩は『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ:美しい町』194。

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ばあやは野茨(ノイバラ)が好きだったのだろう。好きなものについては、話を度々するし、繰り返し同じ話をする。孫は聴いたことがあると「もう、きいたよ。」と単純に言ってしまう。しかし、話したばあやは堪えてしまう。それに孫は気づいてしまった。ああ、話してほしいな、そう思っても、行き違ったもつれは容易にほどけない。

ばあやがまた話せるようになるといいな。

ーー

母の母(祖母)は高血圧だった。60代で手の自由が利かなくなり、軽症と思われたが、当時は大事を取り、療養に専念していた。母に連れられて母の姉の家によく行っていた。祖母は家の真ん中で、畳に敷かれた布団に座り、孫が来て、遊ぶのを眺めていた。

遊び疲れた頃、「おいで」と自由になる手で手招きする。孫達は遠くで見るだけで近寄ろうとはしない。立ち止まって祖母の手招きに応えようとするが、誰も動かない。なんどもそのような機会があったが、祖母の手招きに応えることがなかった。

あのシーンが脳裏に焼き付き、今でも手招きに応じれば良かったのに、と記憶がよみがえる。祖母の瞳(め)には何が写っていたのだろう。

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野茨(ノイバラ)は日本中に分布(朝鮮半島にも)しているので、気をつけてみれば、よく見つけることができる。里山の林縁部に見られる。ごくうの散歩道でも3カ所生えている。

つる性なので、ヒョローッと伸びている。晩春から初夏(4月から6月)にかけて花を付ける。白くて、可憐(素朴なかわいらしさ)なので、手に取って見ようとすると、トゲがあるので、ちょっと引っかけてしまう。ノイバラの果実は丸く、先端に黒い冠状のヘタが付いている。容易に芽が出る。挿し木でも容易に根付かせることができる。

原種なので、バラの品種改良に使われてきた。多くの改良品種は鑑賞花として、季節には植物園や公園で、展示され、人々に親しまれている。

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画像はバラの品種「タマンゴ」:http://otakaki.co.jp/wp/wp-content/uploads/2017/07/170626S504.jpgから。