妻の語り草:クリスマスケーキが変わった

子供がケーキを知ってから、クリスマスにケーキを食べるのが習慣になってきていた。当時、クリスマスケーキはバタークリームが主流だった。毎年、クリスマスにはケーキを帰宅の折に買って帰るのが慣例になっていた。

家族はクリスマスイブにはいつもバタークリームのクリスマスケーキを帰ってくるのを心待ちにしていた。1970年代の中頃、いつものように、クリスマスイブにケーキを持って帰った。

家族は持って帰ったクリスマスケーキを覗き込んだ。いつものケーキとは少し様子が違う。

「バタークリームじゃないの。」

妻はいつものようにケーキを切り分ける用意をした。

「今日のケーキ、少し柔らかいわ。」

子供達はケーキを覗き込む。妻がケーキを切り分け、お皿に移す。子供達がケーキをフォークでさらに小さく切り分ける。

「おかしいね。」

切り分けたケーキを口に運ぶ、子供と妻は一瞬顔を曇らす。

「うん。」

バタークリームではなくて、生クリームケーキだった。

「美味しい!」

子供達は口々に告げる。妻も曇った顔から表情が変わった。

口の中で溶けるように消えていく生クリームのケーキは初めての食感を与えていた。予想外に美味しい生クリームのクリスマスケーキがバタークリームケーキに取って変わった瞬間だった。

子供達も大きくなった。クリスマスが近づくと、妻が思い出したように語る。妻はケーキをあまり食べない。しかし、折に付け呟く。子供が帰省すれば、必ず買い求める。

「エルトベーレンが食べたいな。」

*エルトベーレン:ショートケーキよりも一回り大きく作られ、切り分けられた生クリームケーキ。