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キングのいた頃 小六女子は怖かった

小学校1年生で転校してきた僕は6年生をむかえていた。夏休みに入る前、学期最後の授業で、鬼ごっこをすることになった。(未だに教育目的は分からず、記憶だけが残っている。)女生徒が鬼役となり、男生徒が子になり、鬼ごっこが始まった。

逃げていい場所は教室のある棟と周辺と決まっていたが、どの男生徒もそれほど遠くに逃げてはいなかった。教室にも逃げてはいなかった。大人数でやるので、隠れるところなどなかったも同然である。それに、思春期を迎えている男の子は女の子に捕まる時にタッチされるのを喜んでいた節がある。次々と見つかり、捕まえられる。

静まってきた辺りを気にしながら、教室にいた自分だけが取り残されたようにうずくまっていた。そこにとうとう7人の女生徒が賑やかにやってきた。たちまちの内に見つけられ、逃げると言うよりも、追い回される。その怖さは筆舌に尽くしがたかった、といっても良いくらい。

7人の中に近所のよく見知った女生徒がいた。ひときわ大きい子であった。その女生徒が勢いよく迫ってきて、むんずと捕まれてしまった。観念して女生徒についていった。その女生徒は高橋だった。時折、高橋には出会っていたが、ほんの数回であった。

* * *

高校に入り、近隣から入学してくる者と友達になった。当時、女子のクラスは1クラスしか無かった。その友は高橋が好きになった。高校卒業が迫り、とうとう会いに行く気になった。

「お前、近所だろう。連れて行け。」

否応も無く、付き合わされた。昔、雁木のある階段がある側で、高橋の家は薬局を営んでいた。尋ねていくと、母親が相手をしてくれたが、高橋は出てこなかった。

* * *

結婚し、大店の離れを借家として借りた。やがてキングがやってきた。散歩コースが室町時代から続く商家町を抜け、周りを周回するようになった。雁木のある川筋も散歩コースになっていた。高橋薬局を見るたびに、時に、友と行ったことを思い出していた。

ある夏の夜に、ちょうど高橋薬局から出てきた羽衣風の服(薄手の軽くふわふわするような服)を着た2人の女子が自動車に向かって行くのに遭遇した。直感的に悟った。

「あっ、高橋の娘だな。」

薄暗がりの中で、後を追うように夫婦が車に向かっていた。怖かった小六女子は母親になっていた。キングと妻は黙々と歩いている。やがて喧噪は消え、車も走り去ったようだ。

羽衣風の服は当時の流行だったようだ。同じ頃、恩師のOB会を開催し、恩師の孫娘二人が同じ服装だった。
※(ファッションには、識別能力がほとんど無い。)