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Short Story:広島城のいあわせ美女

画像:https://note.com/soprano_design/n/nceb0544d336b を加工。

津和野の居合わせ美女は「真っ赤な RX-8」に乗っていた。

広島城のいあわせ美女は「真っ赤な ワンピース」を着ていた。

広島城に行った折、入り口付近で、真っ赤というより、深紅に近いワンピースを着た若い女性を見かけた。皆が広島城に入城する入り口がある付近で、女性は臆することなく、何やらポーズを取っている。

ワンピースは1960年代のファッションを思い出させるが、薄いフェルト生地に似ており、しっかり、くっきりする生地である。ワンピースは身体にしっかりフィットし、ウエストで締まる。ウエストには飾りはなく、非常にシンプルである。しっかりしたデザインと縫製を窺わせる。どちらかというと、ワンピースにあった細い身体だ。

ケントスで、「君の瞳に恋してる」を歌い出しそうな雰囲気を醸し出している。リボンはしていない。髪は長くはなく、セミロングと言う程にもないかもしれない。髪が肩には届いていない。爽やかに揺れている。首飾りもシンプルながら、華やぐ雰囲気を醸しだしている。肩は露出していない。3分袖というのだろうか、短めである。

三脚を立てて撮影している。自動シャッターのようだ。ポーズを変えては写真を撮っている。動く度にフレアーのようにスカート部分が左右に揺れる。いわゆる「決まっている様」に、唖然とする表情で見るとはなしに、見る。広島城の入場口に向かう人々も足を止めては、見ながら歩を進める。

SNSにアップする写真かな、と思いながら見ていても、表情や様子は変わらず、一心不乱というほどではないが、写真撮影に集中している。思わず見入っていると、遅れてきた妻が袖を引っ張った。入場口に立ち、振り返ると、まだ赤いワンピースの女性はポーズを取りながら撮影している。

広島城の見学を終わり、元いた入場口前に戻った。赤いワンピースの女性がいた場所付近を、小さな羽の付いた虫がゆっくりと回りながら飛び、霞となって消えていった。見入っていると、楚にして優しき妻が振り返った。眼差しが「早く行きましょう」と言っている。繁華街(紙屋町)の喧騒に包まれていった。

*六本木・ケントス