ごくうが行く:手を振るシルバー

台風の前、ごくうの散歩を済ませようと早めに出る。いつものコースの内、坂を上がり、公民館コースを選択した。ごくうは黙々と歩いて行く。雨が降りそうだ。交差点に差し掛かり、上に上がれば、家に帰れる。

交差点で、いつも出会うワンちゃんを連れた女性に出会う。ワンちゃんはまだ気がつかない。気がつけば、尾を振って近づいてくる。小雨が降ってきたので、ごくうを交差点を渡るように誘ったが、ごくうはさらに散歩を続けようとする。

件の女性が手を振る。帰って行くと思ったらしい。その女性が手を振るのははじめてだった。ごくうは挨拶したいらしく、強く行こうとする。根負けして近づいていく。ごくうが女性に挨拶すると、ワンちゃんも近づいてくる。互いに挨拶し、ごくうを強引にダッコして帰る。

出会うと、いつも手を振って挨拶するシルバーがいる。遠くで見かけたときには、高く手を上げて振り、近い所では、軽く手を上げて振る。彼は昭和1桁世代だ。肩は多少湾曲しているが、歩く姿は溌剌とし、元気よく歩いている。家庭では、良くあることで、奥さんに「きつく」あたられることがあるらしい。

以前、関東で地震があったとき、息子達を心配していた。自分が心配される世代だが、いつまでも親であることに変わりはない。

1年位前、近所で、救急車が走っていった。偶然、翌日に手を振って挨拶するシルバーに出会った。

「昨日、救急車が走ったのを知っちょるか。」

「ええ。」

「ありゃ、わしの友達じゃった。」

かなり驚いたようで、失望というか、嘆きというか、心落ちした気分になっている。慰める言葉を求めているわけでもない。

ごくうが来てから半年くらい経ってた頃、手を振るシルバーと散歩が同期したのか、よく出会いだした。イヌには興味がないのか、可愛がろうとはしない。ただ、出会えば、手を振って挨拶する。2年が経過する頃には、途中で歩を止め、話しかけたりしていた。

3年目の涼しくなった頃、帰る途中で出会った。

「最近は寂しくなったんよ。今まで散歩で出会っていた連中がだんだん少なくなり、もうのこっちょらん。」

「それはお寂しいですね。」

「それいね。寂しいいね。」

「ごくうはいいのお。散歩に連れて行ってもらえるけ。」

ごくうに言葉を残して帰って行った。

話す機会が多くなって、とうとう気になっていたことを聞く気になった。

*ごくうが行く:さくらの宿題が解決した
https://note.com/tsutsusi16/n/n21572af31b2d?magazine_key=m24c6fc3ea0c8