ごくうが行く:いきなり「ごくうですか」と聞かれた

年1回の御講勤めがあった。御講勤めが終わり、ごくうの散歩に出かけたのは、一番星が明るくなり始めた夕刻遅くであった。

お大師堂コースを歩くごくうが同じ団地の夫婦に遭遇。ごくうを覚えており、ごくうも覚えている。ごくうは親しげに寄っていく。お大師堂を過ぎ、よく寄る新しい団地への道に差し掛かった。散歩には暗かったが、ごくうは躊躇なく歩こうとする。

ごくうの勢いに吊られて付いていく。薄暗い道の側は段差があり、野原が広がっている。枯れ始めた草が揺れ、獣の移動する音が伝わってくる。ごくうが見えない。思わず、「ごくう」と叫ぶ。ごくうは木の下でマーキングしていた。

そそくさとごくうを追い立てるように団地への道を上がろうとするが、ごくうは用を足したいのか、ウロウロする。ようやく用を足すと、下から自転車の灯りが上がってくる。

自転車が追いついたので、自転車を押す人にむかって、

「もう、この時間は獣が出ますね」

と話しかけた。

「そうですか」

抱きかかえているごくうを見て、

「変わった犬ですね」

「ええ、柴犬とパピヨンのハーフです」

「ミックスですか。」

男性は間を置いたが、はたとひらめいたのか、

「ごくう君?」

と尋ねてきた。驚いていると、

「散歩コースのコンビニがあるでしょう。あそこにごくうを可愛がる女性がいるでしょう」

どうしてこんな話と、驚きながら

「ええ」

と相づちを打つ。

「あの女性の旦那です」

コンビニに働く女性がよくごくうを可愛がっていた。

「あー、そうなんですか」

驚きながらも得心する。

「ミニチュアピンシャー、いますよね」

以前聞いていたことを話す。

「そう、そう」

「犬好きは他の犬も好き」を身をもって知る。

ごくうはあちこちマーキングする。男性は自転車を押して先を急いだ。